幼い子供たちの遊び方

「で、何をやってるんですか?あなた達は。」

 部屋に入るなりアメリアはそう言って、羊皮紙を筒状に丸めている子供たちを見た。

「剣をつくってるんです、ははうえ。」
「羊皮紙を丸めて、ですか?」
「はい、これをつかってク―ンねえさまやティルと遊ぶんです。」
「ホントは木の板かなにかをつかってちちうえにつくってもらおうとしたんですけど」
「あぶないからダメって言われました。」

 確かに木で作った剣でも子供が遊びに使うのは危険だろう。

「でも、羊皮紙を丸めただけじゃあすぐ使えなくなるんじゃないですか?」

 羊皮紙は加工してあるとはいえ、もともとは羊などの皮だ。
 それを丸めただけの剣ではすぐにふにゃふにゃになってしまうだろう。

「はい、とうさまにもそう言われました。」
「だから、ちちうえにけずってまるくした木の棒をつくってもらって、それに羊皮紙をまきつけることにしたんです。」

 どうやら羊皮紙を筒状に丸めていたのではなく、木の棒に巻きつけていたようだ。

「なるほど。で、何の遊びに使うんですか?」

 そうアメリアが問いかけると、子供たちは満面の笑みを浮かべながら声を合わせてこう言った。

『戦隊遊びです。』




         ――幼い子供たちの遊び方――




 セイルーン王宮の1区画にある広い庭では、今日も穏やかな風が吹く。
 太陽は眩しく輝き、小鳥もさえずる。
 そんな中…………。

「がははははは、ガウリイ殿は人質に取ったぞぉぅ。」
 セイルーンの現国王は楽しそうにそう叫んだ。

 そしてその傍らには、すぐにでも抜け出せるような感じで簡単に縛られた長身の男がいた。
「えーと、だれか……たすけてくれ?」
 カンペを見ながら、その長身の男――ガウリイは台詞を棒読みした。

 その時、遠くで爆発が起きた。
「そこまでです!ガウリイさんをはなしなさい!!」
 少したどたどしい口調でそう声を上げたのはアセリアだ。
「そうです!悪はゆるしません!!」
 そしてユレイアも後に続いて声を上げる。
「ンと、何をすれバ、いいノ?」
「おれもなにすればいいのかわかんねえ。」
「あ〜、あんたたちにも台本があるでしょう。それの通りに動けば良いのよ。」
 何をするのかわかっていないユズハとティルトに、リアはそう言った。

 やたらノリノリの双子たちとフィルさんに、何をやるのかわかっていないのが約3名。リアは何をやるのかをわかっているだけに多少うんざりした感じで周りをフォローしている。






「で、なんでこんなことになってんの?」

 その庭が見えるカフェテラスでお茶を飲みながら、リナはアメリアに訪ねた。

「まあ、血は争えないってことだろう。」
 アメリアの横に座っていたゼルガディスが答えた。
「そうですね。なんといっても私たちの子供ですからね。」
「…………。俺まで一緒にしないでくれ……。」
 にこやかに言うアメリアに、ゼルガディスは半ばうんざりしたように言った。

 そしてリナはテーブルに頬づえをついて、庭の方を見ながらふと呟いた。
「しかしフィルさんも良くあんなのに付き合うわね。」
「ああ、『久しぶりに孫とのこみゅにけーしょんをとるんじゃあ』とか張りきってたぞ。」
「もう若く無いのに無理しますよね。」
 ゼルガディスとアメリアは苦笑気味に言った。






「あたし………、なんでこんなことしてるんだろう……。」
 リアは、だんだんやるせなくなってきて人生とは何かについて考えていた。

(やりたい遊びがあるって言ってたけど、まさかこんな遊びだったなんて……)

 少し前に、双子たちから一緒に遊んでくれと言われた時に二つ返事で了承したことを非常に後悔しているようだ。

 そのときユレイアから声が掛かった。
「ク―ンあねうえ。次はク―ンあねうえの台詞ですよ。」
「へ、そうだっけ。今どこまでいったの?」
「名乗りの場面です。」
「ああ、はいはい。……ってちょっと。あたしこんな台詞言うの!?」
「はい、ク―ンねえさまはリーダーなんですからかっこよく決めてくださいね。」
 台本を見ながら驚くリアに、アセリアは非情なことをさらりと言う。

「ええっと……、こんとんのうみよりよみがえりししょあくのこんげんたるやみのおう……」
「ねえさま!なんで棒読みなんですか!!」
「そうです!もっと感情をこめてください!!」
『やりなおしです!!』
「わ、わかったわよ。」

 双子のあまりの迫力にリアは気圧されつつ、半ばヤケになりつつやり直した。

「ああもう!フィルおじさんごめんなさい!!混沌の海より甦りし諸悪の根源たる闇の王フィリオネル!!正義の裁きを受けたくなければとっとと父さんを放しなさい!!っていうか早く放してこの遊び終わらせて!!」
「ぬう、何奴ぅ!」
「疾風怒濤の地獄の業火!チャイルド・レッド!!」
「双子のうたひめ!チャイルド・グリーン!」
「双子のかたわれ!チャイルド・ブルー!」
「ほら、次はあんたよ!ティル!!」
「う、うん。なんかおれ、おこられてる?」
「いいから!!はやく言いなさい!!」
「わ、わかった。ええと、ねえさん。これなんてよむんだ?」
「くらげ2号!!」

 実際は台本にはまた違うことが書いてあったのだが、リアは即座にそう答えた。

「…………くらげ2号。チャイルド・ブラウン……。」
「はい、次ユズハ!!」
「ンと、生い立ち複雑、チャイルド・ピンク。」

『五人揃って!王宮戦隊チャイルドレンジャー!!』
「そして火炎球!」

 最初のように、リアが適当な場所へ火炎球を撃ちこんで爆発を演出する。

 こうして、抑え役がヤケになったせいで誰も止める者がいなくなった戦隊遊びが始まった。





「あ〜あ。リアも限界突破しちゃったわね。」
 リナは自分の娘がヤケになる場面を見ながら面白そうにそう言った。
 こういう物はある程度の年齢に達すると、自分でやるのは堪らないが良く知った人間がやっているのを見るのは面白く感じてくるものだ。
 それはほとんど笑い者にしているような物だが。

「で、あの台詞考えたのはアメリア?」
「はい、良くわかりましたね。」
「……俺は止めろと言ったんだが………。」
 どうやらアメリアも台詞作りに1枚噛んでいるらしい。

「そう言えば、なんでガウリイさんが囚われの姫君役なんですか?」
「ああ、安全のためよ。羊皮紙巻いた木の棒使うらしいじゃない。なんかあったらさすがに問題だし。」
「かといって、俺もリナもあれの渦中にはいたくないからな。その点ガウリイなら何も考えてないだろうからちょうどいいだろう。」
「それなら私に言ってくれれば参加したんですけど。」
「あんたじゃ悪ノリするでしょうが。」
「そうだな、火に油を注ぐのは勘弁したい。」
「………、もうそんな心配も無意味だと思いますけど。」
 3人の視線の先には、なにやら収集のつかなさそうになってきた中庭の光景があった。






 羊皮紙を巻いて作った剣を振り回しながら、5人はフィルさん攻撃し始めていた。

「がははは。そんな剣さばきではわしには当たらんぞぉ!」
 そう言いながら――実際はけっこう当たっているのだが――フィルさんは剣を振り回している子供たちに抱きついたりして楽しんでいる。
 子供たちもそれが面白いらしくきゃっきゃと言いながら楽しんでいる。


 ………………。


 リア以外は……………………。



 リアが次は何の台詞だったかと台本で確認して、顔を上げた瞬間。
 フィルさんの顔が………。目の前にあった………。

「ひどわきゃあああ!!火炎球!!」
 そして思わず条件反射で火炎球を打ち出してしまった。
「うどわぁ!!」
 慌てて避けるフィルさん。
 しかしリアはパニックに陥っているようで。
「火炎球!!」
 呪文を連発し始めた。


「あの馬鹿娘!ちょっと待ちなさいリア!!ってこらガウリイ!!何のんきに居眠ってんのよ!!」
 さすがにおもしろおかしく観戦していたリナも慌てて止めに走っていった。


「う〜ん。どうしてリアはいきなり暴れだしたんでしょう。」
「いや、あれは当然の反応だと思うぞ………。うわ、こっちにも一発来るぞ!」
 どうやら安全地帯などは存在しないようだ。


「ンと、ゆずはも、燃す?」
「ダメですユズハ!!」
 ユズハの呟きを耳ざとく聞きつけたアメリアは、そう叫んでユズハを止めに走っていった。

 そして現場が大混乱になっているさなか。
 ユレイアが台本を確認して呟いた。

「えーっと。もりあがってきたらテーマソングをながすんでしたよね。それじゃあ一番ユレイア。歌います!」
「待たんかユレイア!!」
 そしてゼルまで飛び出していった。





 こうして、リアが乱射した火炎球が王宮の1区画にかなりの打撃を与えた所で騒ぎはひとまず収まった。

 この騒動の後、『子供の戦隊遊びは禁止』という一条が王室典範に追加されたとかされなかったとか。







 次の日。


「それで、フィルさんは大丈夫だったの?」
 王宮に来たリナはアメリアにそう訪ねた。
 火炎球がフィルさんに数発直撃していたから心配だったのだろう。
「はい、あそこは結界のほぼ中心部だったので幸い大したことはなかったみたいです。」
「セイルーンの外だったら危なかったらしいがな。」
 同席していたゼルガディスが呆れたように付け加えた。

「でも………。」
「今日は執務どころじゃないだろうな。」
「まあ、あんだけ火炎球食らってたら普通そうでしょう。」
 そう言ったリナに、二人は首を振りながらこう言った。

「さっき俺たちが様子を見にいった時に言ってたんだが……。」
「無茶しすぎて腰を痛めたらしいです。」

「いわんこっちゃない…………。」


 最後のリナの台詞は、
 ゼルガディスとアメリアが二人でフィルさんの見舞いに行った時に、
 ゼルガディスが言った台詞と全く同じだった。



 おしまい。
 へろうちょさんからバレンタインのプレゼントとして頂きましたvv
 いやもう笑いが止まらない止まらない(笑)。特に名乗りを上げるときのティルトとユズハに大爆笑で、初読みで笑い、読み返して笑い、ページを作って改行タグを打ちこんでいたさっきもやっぱり笑っておりました。
 双子が5、6歳とするとリアは11、12歳。そろそろ戦隊遊びが恥ずかしいお年頃です(笑)。この娘の災難もリナと同じく楽しんでおりました。ごめんねリア(笑)

 実はこのお話、以前にへろうちょさんから頂いた「思いで」としっかりリンクしていて、前作で双子が話していたカラーリングがそのままキャラたちのカラーになっております。前回のお礼の言葉のなかで私が呟いていた敵役の謎も判明。フィルさんでした。何て適役(笑)。

 へろうちょさん、すてきなプレゼントをどうもありがとうございました(><)