大好きだから
「りあ」
「なぁに?」
「おなかすいた」
ここはセイルーン王宮。その中の比較的外面に近いサンルームにアメリアとユズハはいた。
『ちょっとした気分転換に』と、いつものアメリアの個室とは少しばかり離れたサンルームへ出かけたのだ。
季節に見合った柔らかな陽が差し込み、半分程開けられた窓からは春特有の桃色の花びら――桜――が風に巻かれて僅かに入り込んできていた。
このぽかぽか陽気と甘い花の香りにユズハは空腹を覚えてしまった…のだろう。
本来なら食事を必要としない身体なのだがユズハは特例だ。
「りあ、なにかたべたい」
巫女衣装の裾を引っ張ってねだるユズハ。
「そんなこと言ってもここには食べ物は置いてないし………あ、今の時間ならメティ達がお茶してるはずよ。行ってみる?」
メティルというのは昔からのアメリアの専属メイドの一人だ。
ちょうど今はおやつの時間。おそらく庭園かどこかでくつろいでいることだろう。
「ン、いってみル」
返事をするなり小走りで部屋を出て行ってしまった。
「…あ!たぶん庭園にいるから!!………ってちゃんと聞こえたかな…」
聞こえていなくてもおよそ見当はつくはず。だがユズハのことだ。そこまで辿り着くのに時間がかかるに違いない。
「やっぱり一緒に行ってあげたほうが良かったかも…」
「何が良かったんだ?」
「うえぇ?!」
振り返るとドアに背を預けて立っているゼルガディスがいた。
「どうせまたユズハのことだろう、ったく」
何やらご立腹の様子。
冷静沈着なゼルガディスもユズハ(アメリア関係)が絡んでくると人が変わったようになってしまうのだ。
アメリアにべったりなユズハを見ると青スジをたてて無理やり引き剥がしたり、子供同士のような口げんかをしたりetc…
簡単に言うとやきもち。
いつものゼルガディスとはかけ離れた一面に、アメリアは嬉しいやら困るやら。なんとも複雑な心境。
「くすくす」
「何がおかしい」
「ゼルガディスさん可愛いです〜v」
「どこがだ!!」
不機嫌を逆撫でするようなことを言われ、声を荒げる。
「だって〜 くすくすくす」
「………(怒) そんなこと言うやつにはお仕置きだ」
「ほぇ?――っ!」
いつも間にやらアメリアとの距離をつめていたゼルがディスは、片手で細い顎を捕らえ、上を向かせると、少し強引に唇を重ねた。
アメリアは必死でもがくが、背中に腕を回されて強く抱きしめられているため、それは叶わない。
暫くして、息苦しさを訴えるアメリアに気づいたのか、ゆっくりと唇を離した。
「っは…もう!ゼルガディスさんったら――っきゃ!」
長いキスからの開放もつかの間、傍にあった大きめのソファーに押し倒されてしまった。
「ちょちょちょゼルガディスさん?!今真昼間ですよ?!」
顔を真っ赤に染めるアメリアだが、ゼルガディスは―――この上なく楽しそうだ…
「安心しろ。俺は気にしない」
「気にしてください!!」
両手を拘束されつつ、なお暴れるアメリアに静かにしろと言わんばかりに口を塞ぐ。
「(うわ〜ん。誰か助けてください〜(泣))」
てってってってっ
きょろきょろ辺りを見回しながら走るお子様が一人。
なんとかアメリアの声は聞こえていたようで、庭園の中をうろちょろしている。だが、今は春!やっと訪れた暖かい空気と光草木は生き生きとその身を風に踊らせている。大人たちにとってなんのことはない植物達だが、ユズハにとっては立派な視界障害物だ。
「めてぃ…」
まだ見ぬ探し人の名を呼ぶ。
そのとき、さらっと流れた風の中に花とは違う香りを見付けた。
「おかしのにおい!」
ユズハは即座に匂いのした方向へ―――飛んだ。
「今日もいい天気ね〜」
「ほんとに」
雲一つない青空。その下でのお茶会はまた格別♪
「今日は特別に、じゃ〜ん!フルーツタルト焼いてきたのよ♪」
「うっわ〜美味しそうねv」
「ふっふっふっ、結構の自信作なのよねんvじゃ、切るわよ」
ナイフを入れた瞬間、
ガサガサガサッ どてっ
「めてぃv」
『ユズハ?』
いきなり飛び出てきたユズハに視線が集まる。
「どうしたの?」
問いかけると服についた汚れも掃わずにテーブルに跳びついた。
「おなかすいタの。めてぃ、おかしちょーだい」
思わずため息をつく一同。
「(ほんとにこの子よく食べるわね…)」
どこにそんな量が入るのか不思議に思うがあまり深くは考えずにしておく。
「(持ってきてて良かった)」
食べる気はなかったのだが持ってきてしまっていた数個の菓子パンをバスケットごとユズハの前に差し出す。
「はい。お菓子じゃないけどね」
「ありがとー」
早速手近なアップルデニッシュにパクつく。
幸せそうにパンにかぶりつくユズハを見て、皆自然と笑みがこぼれた。
「そういえばさー」
「んー?」
ユズハにジュースを注いでやっているため、あいまいな返事で返す。
「ゼルガディス様がサンルームに向かわれてたの見たんだけど、珍しくない?」
「そうね〜いつもなら図書室か個室にいらっしゃるのに」
「さんるーむ?」
口の周りにパンくずをいっぱいつけていつの間にかメティル達を見上げている。
「お日様の光がいっぱいあたる大きなお部屋よ。ソファーもとびきり大きいのが置いてある―――」
「りあといっしょにそこいたよーあそこキモチいー」
言い終わると両手でグラスを持って、オレンジジュースを一気に飲み干した。
「ってことは今――二人っきりってことよね」
「まづいわ…」
カチャンと音をたててティーカップを置いた。
「なになにー?」
数秒の沈黙をユズハの無邪気な声がやぶる。
「なんのことー?」
メティルは乗り出てくる小さな頭の上に手を置いて呟いた。
「昼間っからは…ね」
「なんなの?!おしえテ!!」
ぷんすかと頬を膨らますユズハに、どう答えてよいのやら、と顎に手をあてて悩む。
「――要するにお二人は今いちゃいちゃしてるってことかな」
なるべく軽〜く言った。
「……ダ・メ」
残りのパンもしっかり持ってすっ飛んでいった。
「意地悪ねーメティも」
「真昼間はダメでしょ。真昼間は」
確かに、とテーブルを囲う全員が苦笑した。
「ユズハが行ったから心配ないでしょ。もっとも――」
ゼルガディス様のストレスが倍になっちゃうでしょうけど。
「(やばいですぅ〜うにゃ〜(汗))」
首筋に温かい息がかかる。触れてもいないのにそこから全身に甘い痺れが伝わっていくよう。
息がかかっていた箇所に生温かい感触を感じた瞬間―――
ぼっ
「うあ゛ぢぃ!!」
突然肩辺りに真っ赤な花が咲いた。
がばぁっと身を起こした瞬間、こめかみに強い衝撃がはしり、床に倒れこんでしまった。
「…………っ一体何―――」
軽い脳震盪を引き起こした頭を振って、今までいた方を振り返ると、見慣れた天敵がくっついていた。―――アメリアの胸元に
「おまいは……」
ユズハはゼルガディスの方に顔だけを向けて、んべっと舌を出した。
「ったく毎度毎度ぉ!もう我慢ならん!」
アメリアから引き剥がそうと腕を伸ばすが、するりとかわされてしまう。それからたて続けに繰り出されるものも軽々と避けられる。
「(ほ…なんとか助かった…でも後が怖いかも〜)」
邪魔してくれたユズハに感謝しつつ、これからの展開を想像してしまって気が重くなるアメリアなのでした。
このまえきかれたの
なんでぜるのじゃまするの?って
ぜるきらいだもんってこたえたら
うそばっかりっていわれちゃった
りあのことすきならじゃましないほうがいいんじゃないっていわれた
そりゃありあもざんねんそうなかおするときもあるけど
りあはユズハのだもん!
やきもちやきねっていわれた
ほんとはね わかってるの
でもしばらくはじゃましてやるんだ
りあのことまたせてたおしおき
ぜるのことほんとはきらいじゃないけど
りあのことはだいすきだもん
りあのないたかおはきらい
だからそうさせてたぜるにおしおきしてるの
りあのことだいすきだから!!
〜END〜
蒼爽耶さまからいただきましたvv
掲示板で、蒼爽耶さまがお話の外伝を書いてみたくなるとおっしゃっていたところを、桐生がむりやり「書いてくださいっvv」とねじこみました(爆)
似合う壁紙を見つけ次第掲載しますvとか言っておきながら、何でしょうこの壁紙は(爆)
この花のぱかっとした咲き具合が何かユズハっぽくっていいなぁと勝手に思ったんです、すいません(^^;
………もうユズハが可愛くて(親馬鹿)。蒼爽耶さまありがとうございます(><)
最後のひらがな文章なんかめろめろでした。たしかに、ゼルが来るまでユズハはずっとアメリアべったりで一緒にいたのに、帰ってきたら即結婚の流れになって環境が激変してますからね、ものすごく邪魔してそう(笑)。第一部と第二部のあいだ、なおかつユズハがリアと出会う前、というと実質的に三ヶ月あるかないかですので、ある意味とっても貴重な時期のお話です。ところでかなり余談ですが、この時点ですでにリナのおなかにはティルトがいます。そして、ティルトと双子は三ヶ月差の同い年です。……つまり?(笑)
まあ、そんなことは些細なことです(笑)
蒼爽耶さまどうもありがとうございました。vv