〜綺麗な華には〜
とある町のとある宿。そこには、何時もの光景が……
「ごっちそうさま〜」
「あー腹一杯だな♪」
「相変わらずスゴイですねぇ」
「………フゥ」
リナとガウリイが食事の終了を宣言すると、別テーブルで既に食後の香茶に入っていたアメリアとゼルガディスが、器ごと移動してきた。
リナ達の注文の品だけでテーブルがいっぱいになってしまい、席替えを余儀なくされていたのだ。
「ん〜♪」
「リナ、ごきげんね」
満面の笑みで運ばれて来たばかりの香茶を味わう彼女を見ながら、アメリアも一口。
「んふふっ♪ 昨日の戦利品の事考えると、つい、ね?」
「つい、ね? ……じゃないだろ。お前なぁ」
「だって、たいしたことない戦力の割りには、かなりの実入りなのよぉ〜」
この場合、戦利品とはお宝の山であり、戦力とは盗賊団のことである。
「だからって;」
「諦めるんだな、今更だ」
またもやリナの盗賊いぢめを阻止できず苦笑気味のガウリイと、開き直った感のゼルガディス。
昨夜、リナの脱走に気付き追いかけた。が、時既に遅し。着いた先には、黒い山をバックにお宝の選別に余念ないリナの姿があっただけだった。
「だけどなぁ、もうちっと加減というか……」
「あらっ、加減はしてるわよ。じゃなきゃ、お宝まで吹っ飛んじゃうしv」
哀れな黒い山、もといリナの呪文によってこんがり焼けた盗賊達をあまり人事にすることも出来ないガウリイを、
「あたしの前に立ち塞がろうなんて百万年早いのよ! それに、この美少女天才魔道士が有効利用してあげるってんだから、感謝すべきでしょう? それが世の為人の為ってね♪」
と、リナはお得意の口上であっさりバッサリと切り捨てた。
「常々思っていたんだが…」
「ん?」
「あんたが天才魔道士っていうのには別に異論はないが、普通付けるか?自分に」
美少女と、と言外に聞こえ、リナはゼルガディスを軽く睨み付ける。
そんなやり取りに残る二人は汗を隠し、ひたすら茶を啜る。
この手の言葉にリナの返しは極端だ。
「ふぅ〜ん? ゼルはあたしが美少女じゃないって言いたいワケ?」
「自ら名乗るのはどうか? という話だ」
「っなら、あたしが美少女ってことは否定しないワケね?」
爆発する! そう覚悟したが、リナはにっこり笑いながら身を乗り出すように頬杖をつく。
「………」
にこにこ
「……………」
にこにこ
「…………………;」
にこにこ
ふわりっ
「!……………はぁ、おれが悪かった」
ゼルガディスは両手を挙げ、左右からは安堵のため息。
「判れば良いのよ♪」
「あはは…」
すぅっと空気密度が元に戻り、アメリアは乾いた声で笑った。もちろん、こめかみに一筋の汗も忘れない。
おっ、今日は大人しい…と思いきや、やはり導火線はそんなに長くはなかった。抑える気が全くなかったリナの周りには、魔力の残滓が散っている。
「リナ〜お前がやると、冗談にならないぞ;」
おっかねぇ…
ガウリイの小さな呟きは、リナの出来の良い耳にはしっかり届いていた。
リナはゼルガディスからガウリイに視線だけを移し、片目を眇て今度は不敵に笑う。
「よく言うでしょ?
『綺麗な華には刺がある』ってね♪」
パチリッとウィンクひとつ、そしてそのまま椅子を鳴らして立ち上がった。
「リナ?」
アメリアは急に席を立ったリナに首を傾げる。
「あたしは部屋に戻るわ。お宝の整理もしたいしね。じゃあね!」
ヒラヒラ手を振るリナのマントが階段に消えたのを確認してから、三人は今度こそ溜め込んだ何かを息と共に長く吐き出した。
「ゼルガディスさんらしくないですよ〜」
「だな」
「いや、おれもそうは思うが……いったいどこまで本気で言ってるのかと、つい気になってな」
「変なところで好奇心発揮しないで下さい」
全部本気だったか…と、頷くゼルガディスにアメリアは脱力したまま返した。
「しかし、『綺麗な華には〜』なんてセリフ……まぁ、確かにあいつらしいっちゃ、らしいが…」
「刺の存在を自覚してるのを良しとするか、いや、だからこそ質が悪いというべきか」
「確信犯と天然って、どっちが悪いんですか?」
ズバリ聞いて来たアメリアに苦笑しながら、男二人は少し考え、
「どっちもどっちだろ」
「関わっちまえば、被害を被る。関わらなければ、被らない。そういう意味では大差ないだろう」
「ふ〜ん。そういうものですか」
「そういうもんさ。まぁ、あいつのは鋭くて数も多そうだから、避けるのは難しいだろうなぁ」
「違いない。華を持つのも無理だろうな、普通だったら」
………普通だったら………
「ふむ……お二人とも、刺のある花、………そうですね、薔薇の正しい持ち方ってご存知ですか?」
男二人がぼやいている脇で、何やら考え込んでいたアメリアがニッコリ可愛らしく首を傾げた。
「いや?」
「そんなのあるのか?」
「はい、もちろんです! じゃあ、綺麗な薔薇の育て方も?」
「植物なんて皆同じじゃないのか?」
「綺麗なって付いてるから、特別な方法でも使うんだろ?」
「ふふっ、ではっ不肖このアメリアが、『綺麗な薔薇の育て方』を伝授致しましょう!」
ガタンッ
「っうおぅ!」
「わかった。わかったから、とりあえず座ってくれ……」
あまり目立ちたくないゼルガディスは、勢い良く元気いっぱいに立ち上がったアメリアに促した。既に手遅れなのは言うまでもないが………
ガタンッとこれまた勢い良く着席したアメリアは、大きな瞳をキラキラさせながら熱く語り出した。
「まず、良い環境が必要ですね。あっ! もちろん、過酷な場所で咲く花もありますけど、それは今回はこっちに置いといて〜」
何かを横に退ける動作をして、
「風通し・日当たり・水捌け・土質などを整えてあげます。
植えてからも水遣りや肥料をきちんと与えなければいけませんね。ただし、やり過ぎれば腐ってしまいますし、足りなければ枯れてしまいます。
話し掛けてあげることも大事ですよ〜そうすればとても喜びますv
剪定もきちんと行わないと!
それから、雑草・害虫駆除も必要ですね。薬とか使ってもいいですけど、やはり自分の手で排除すべきです!
あと、踏み荒らされたりしないように名札を付けておくのもいいかも知れません。
後は、蕾を花を愛でてあげましょう。」
アメリアは一気に喋って疲れたのか、少し冷めてしまった香茶を飲み干した。
「ふ〜ん。詳しいんだな」
「はい! ウチの王宮庭園を管理してくれていた庭師の方々に教えてもらいました。
最後に花を手折る時は気を付けて下さいね? 乱暴に扱ったり、強く握り絞めてしまうと、自分も花も傷ついてしまいますから。そうっと優しく刺の上から持つんです。柔らかく包み込むようにですよ。」
こうです。と、近くにたまたま活けてあった花を取り上げて見せた。
その花は薔薇ではなかったが、その茎の部分を葉を潰さない様に持っている。掴むというよりも、葉を筒状にした掌で支えているだけらしい。
ガウリイとゼルガディスが確認したのを見て、アメリアは花を花瓶に戻した。
「わかりましたか?」
「あっああ……」
「わかったけど、何でこんな話になったんだっけ?」
小首を傾げるアメリアにガウリイまで首を傾げた。
「リナの『綺麗な華には刺がある』ってセリフからです!」
「あぁ、そっかぁ」
納得するガウリイと何かに納得いかないのか頭を捻るゼルガディス。
「では、わたしもそろそろ失礼しますね!」
話終わってすっきりしたのか、アメリアはぺこりと頭を下げ、リナの後を追った。
「お二人とも頑張って下さいね?」
と、意味深な言葉を残して………
コンコンコン
「リナ? 開けるわよ?」
「アメリア? ちょっと待って……………………いいわ」
以前、確認せずに開けて雪崩を起こしてしまい、物凄く怒られた上、こき使われた要らない思い出がある。
「終わったの?」
小山になったキラキラした物をそれぞれ袋に詰めているリナを見ながら、アメリアは自分の荷物に手を掛けた。
「うん、分別だけ。細工はまた後からやるわ。
アメリアはお風呂?」
「えぇ」
「じゃあ、あたしも行くわ。」
と、手早く片付け始めたリナを待つためにベットに腰掛け、その様を見遣った。
「なに? ニヤニヤして、気持ち悪い」
「気持ち悪いってひどい〜」
「そう? なんか心ここに在らずな感じで、笑ってるんだもん。楽しいことでもあった?」
最後の袋の紐を締め、今度はお風呂セットの準備をする。
「実はリナが部屋に戻ってから、ガウリイさんとゼルガディスさんにちょっとした講義を」
「講義? 何の?」
手を休めずにいるリナに大きく胸を張り、
「『綺麗な薔薇の育て方』です!」
「あたしのセリフからよね。理解出来たの、あの二人が?」
「えっ? 今のでわかるの?」
アメリアは目を丸くした。わざと分かりにくく言ったのに、あっさり返してきたリナに舌を巻く。やはり頭の回転の良さが半端ではない。
「お二人の反応は微妙だったわね。」
「でしょうね〜」
「何で?」
「あいつら、そーいうの鈍そうだし」
「というか、リナがすぐに分かったのにびっくり」
「あんたね〜」
リナはアメリアを促して、立ち上がり、
「じゃあさ、反対は知ってる?」
「反対ってことは『綺麗な花〜』の男性版?」
コクッと頷かれ、アメリアは考えてみた。
「そっちは聞いたことないのよねぇ」
ヒント下さい、と何だか真剣に考え直し出したアメリア。
「そんなに難しくないはずよ? ある意味女にも使うわよ」
「む〜〜〜〜」
「じゃあ、ヒントね。
『鉄は熱いうちに打て』!」
「ああ!」
「「刀!」」
揃った声と同時に開けた扉から、宿中に少女達の笑いが拡がった。
END

〔後書きという名の反省・解説文〕
まず……………
遅くなりました〜(土下座;)
プロット自体はすぐ(それこそ30分位で)に出来たのですが、書いてる内にキャラ達が勝手な発言を始めまして、異様に長く………
読んだらわかると思いますが、女が花・男が刀です。
刀は所謂「日本刀」。打ち上がり、拵えるまで物凄い手間隙と大勢の職人さんが関わる品。
日本刀は「折れず、曲がらず、よく切れる」といった3の相反する性質を同時に達成することをベースとした非常に高度な技術が集約されていて他の武器ない特性があります。
そして、刀身だけでなく、柄や鍔・ハバキ・目釘そして鞘がきちんと組み合わさっていなければならない。
古来から武器としての役割と同時に美しい姿が象徴的な意味を持ち、美術品としても評価の高い。
花にも刀にも共通することは、育て方・造り方そして扱い方次第だということだと思います。
すみません;なんか語ってしまいました。
これは、私の考えるリナとアメリアの人生観(そこまで大袈裟じゃないか)
スレイヤーズのキャラ達って研鑽を怠らない気がします。
では、駄文ですが貰ってください〜
20081013 Esther
〔お礼の言葉〕
エスターさんからいただきましたv
もらっていただけませんかとの御言葉に、もらいますっと即答。やりました、ゲットですふふふv
男は剣、女は花。とても華やかな小説です。リナやアメリアってたしかに大輪の花という感じです。派手に誇らかに咲いているけど、したたかにトゲもある。それに薔薇って原種はとても強い植物なんですよね(笑)
男が剣というのも納得。ちゃんと鍛えないとぽっきりいっちゃいますよねえ。錬度が足りないというか(笑)。日本刀は本当に造る工程も造った後も手間暇がかかるんですよね。手入れしないとすぐ錆びちゃうし。その分、きちんと手入れされた日本刀は本当に魂が吸いとられるような輝きを持っています。個人的に香茶のカップを持ってテーブルを移動する冒頭のシーンが好きです。REVOで別テーブルだったので、何か4人一緒というのに飢えているのかもしれません(笑)。あと、アメリアのしたたかぶりがツボでしたv
壁紙は絶対に薔薇と剣だと決めておりました(笑)
エスターさん、本当にどうもありがとうございます(><)