思いで
その時は、なんの迷いもなくやってのけた。
しかし時間がたつと、それは思い出すのも恥ずかしくなる。
人生とはたぶん、そんな事の繰り返しなのだろう。
その日の執務を終え、アメリアが部屋に戻ると、
「かあさま〜。」
「ははうえ〜。」
双子がアメリアに向かって声をかけてきた。
「どうかしたんですか?」
アメリアが問いかけると、
「ききたいことがあったんです。」
という返答が返ってきた。
良く見ると二人とも赤と緑の護符を持っている。
「ははうえ、これはなんですか?」
ユレイアがアメリアに問いかける。
「え?ただの護符じゃないんですか?」
「でも、なにか書いてあるんです。」
「でも、いみがわからないんです。」
確かに、何か書いてある。
「………。これは……どこから見つけてきたんですか?」
アメリアは書かれたことを把握して一瞬絶句し、二人に聞く。
「さっきユズハがもってきたんです。」
「ははうえとちちうえのへやからもってきたらしいです。」
「そ、そおですか……。まだ残ってたんですねぇ、それ…。」
と、アメリアは額に手を当てて呟いた。
「それで、これはなんなんですか?」
「おしえてください、ははうえ。」
「そうですね、もう結構昔――リナたちと旅してたころの事なんですけど………」
そして、アメリアの昔話は始まった。
ある晴れた昼下がり、アメリアたちが街道を通っていると、
「へっへっへ、命が惜しければ有り金を全部置いて行くんだな。」
もはや何度目とも知れぬ盗賊たちが絡んできた。
「ほんっとにこの辺の盗賊にはアドリブの効かない連中が多わね……。」
リナがうんざりしたように溜息をつく。
「別に奇抜な台詞を言う奴がいても、結果は同じだろうが。」
ゼルガディスもうんざりしたようにリナに言う。
「そうですねぇ、今回も僕が動く必要はないでしょうし。」
と、これはゼロス。
「なぁ、飯はまだか?」
「あと少しで町だからもうちょっと我慢しなさい、ガウリイ。」
ガウリイはお腹が減ったようだ。
「……おい、おまえら聞いてるのか!!とっとも有り金全部……。」
「あ、リナさん。私前からやってみたかったことがあるんですけど。」
「やってみたかったこと?」
「はい!みなさんこれをつけてください。」
そう言ってアメリアは全員に色違いの護符を渡す。
リナは薄い赤のような色。
ガウリイは青色。
ゼルガディスは緑色。
ゼロスは黒色。
そしてアメリアは赤色だ。
「………、おーい。おまえらー。だから有り金を…………」
「あ、ちょっと待ってください。もうすぐですから。」
無視されまくって情けない声を上げ出した盗賊に、アメリアは答えた。
「おい、それで俺達はどうすればいいんだ?」
ゼルもちょっと困ってます。
「配役は私が言いますから、後は各自アドリブでお願いします。」
「配役?」
「一体何をやる気なんだ?」
「すぐにわかりますって。」
そういうとアメリアは手近な木に登り始めた。
「………、いい加減にしやがれおまえら!!俺たちをなめてんのか!?」
盗賊の親玉だと思われる人物が、もっともな抗議の声をあげてくる。
「あ〜、まあとりあえずアレはほっといていいから。続きやって良いわよ。」
リナが盗賊たちに続きを促す。
「そ、そうか……。それじゃあお言葉に甘えて……、
こんだけの人数に囲まれてるんだ、
抵抗するとただじゃすまねえから無駄な抵抗は止めて……」
「お待ちなさい!!」
「な、なにぃ!?」
「ど、どこだ!?」
律儀にあたりを見まわす盗賊たち。
どうやら語彙力は無くともノリは良い連中らしい。
「罪もなき通行人の金品を強奪しようとする愚か者達よ!!
あなたたちの行いは、たとえ万回生まれなおしても許されざること!!
故に我らが成敗します!! とうっっ!!」
ごしゃ
やはりというかなんというか…、アメリアは盛大に地面に激突した。
…………………………………。
しばらく痛いほどの沈黙が続き、
その後何事もなかったかのようにアメリアは置きあがってこう言った。
「どうしても刃向かうと言うのなら、
我ら、仲良し戦隊ジャスティスレンジャーがお相手します!!」
今度の全員の沈黙も長かった。
「アメリア……。まったく言ってる意味がわからないんだけど……。」
流石というかなんというか。
真っ先に正常な判断能力を取り戻したのはリナだった。
「1回戦隊物の真似をしてみたかったんです!!」
「戦隊物?」
アメリアの突然の主張にガウリイが不思議そうな声をあげる。
「そうです。ガウリイさんはジャスティス・ブルーです。」
アメリアはガウリイを指さしながらそう宣言した。
「じゃすてすぶるぅ? それは食べ……」
「食べれません。」
ガウリイが全部言い終わる前にアメリアはツッコミを入れる。
「ゼルガディスさんはジャスティス・グリーンです。」
「だからなんなんだそれは……。」
「こういうのは雰囲気が大事なんです。」
良くわからない事を言いながらアメリアはなおも続ける。
「ゼロスさんはジャスティス・ブラックです。」
「まあブラックは良いんですが……ジャスティス、ですか……。」
少し居心地の悪そうな笑みを浮かべながらゼロスは言ったが、
「ちなみに私はジャスティス・レッドです。」
アメリアは自分の世界を突っ走る。
「そして取りのリナさんは……」
「なあ、俺なんか嫌な予感がするんだが………。」
「ああ、俺もさっきから嫌な予感はしてるよ…。」
ガウリイとゼルの懸念の声もアメリアには届かない。
「リナさんはピンク、ジャスティス・ピンクです!!
さあ、五人の友情パワーで悪党を……」
そこまで言ってアメリアは自分に向けられた殺気に気づいた。
「んっふっふっふ、アメリア。私をピンク呼ばわりするとは良い度胸じゃない……。」
「えっ、あのっ、どうしたんですかリナさん?なんか目が据わってますけど………。」
「んー、なんでもないのよ。でもほんのちょっぴし痛い目を見てもらうわよ(はぁと)
ま、威力はセーブしてあげるからあんたなら死にはしないと思うわ。」
そういうとリナは呪文の詠唱を開始した。
「黄昏よりも昏きもの 血の流れより紅きもの……。」
「え、ちょ、リナさんそれって竜破斬じゃ……。」
「時の流れに埋もれし 偉大な汝の名において……。」
「おやおや、そうとう怒ってますねぇ。」
「いかんリナは本気だぞ!!」
「アメリア、逃げろっ!!」
慌てて避難の準備を始めるジャスティスレンジャーの面々。
「我ここに闇に誓わん 我等が前に立ち塞がりし 全ての愚かなるものに……」
「ええい何をごちゃごちゃやってやがる!! 俺たちを無視してんじゃねぇ!!」
すっかり忘れ去られていた盗賊――の親玉――が抗議の声をあげる。
「我と汝が力もて 等しく滅びを与えんことを!!」
呪文が終わると同時に、盗賊たち――具体的には盗賊Aと盗賊B――の話し声がリナに届いた。
「なあ、なんでこんな意味不明なことになってるんだ?」
「俺が知るかよ。ただ、ピンクがどうとか言ってたな。」
「ああ、あの男か女かわからないような胸のやつがピンクとか呼ばれてたな。」
「風俗じゃあるまいし、名前にピンクつけて呼ぶか?」
「はっはっは。風俗でもあんな胸じゃ客こねぇよ。」
「ちげえねぇ。だっはっは。」
当然のことながら、
リナの怒りの矛先はそちらに変わる。
「盗賊なんぞにそんなこと言われたかないわぁぁぁ!!竜破斬!!」
こうしてリナは竜破斬を連発しまくって、盗賊たちを壊滅させたのであった。
もとは街道だった場所が、ただの野原になったことは言うまでもない。
それと、アメリアたちはなんとか逃げ延びることが出来たことを追記しておく。
「とまあ、こんなことがあったんです。」
「なんだか………すごいですね。」
「あ、じゃあこの赤い方に書いてあるジャスティスレッドってははうえのことなんですね。」
「はい、そうですよ。」
「じゃあこっちの緑の方に書いてあるジャスティスグリーンはとうさまのことですか?」
「そうです。でもこんなのまだ持っててくれたんですねぇ。」
アメリアは嬉しそうな恥ずかしそうな複雑な表情だ。
そして、アメリアが少し用事があると言って部屋から出ていき、
アセリアとユレイアはベッドにもぐった。
「ユレイア、おきてますか?」
「ああ、おきてる。」
「さっきかあさまが言ってたことですけど……」
「ああ。」
「おもしろそうだとおもいません?」
「じつは、わたしもそうおもっていたんだ。」
「じゃあ、こんどみんなでやりましょう。」
「だれがどの色ををやるんだ?」
「そうですね、とりあえず赤はク―ンねえさまにやってもらいましょうか。」
「じゃあ、わたしは緑がいいな。」
「それならわたしは青です。」
「ティルは………、ピンクにするか?」
「……、ピンクはユズハのほうが合いそうですけど。」
「……、でものこる色って黒しかないじゃないか。」
「……、それもティルには合わないかもしれませんね…。」
二人はしばらく悩み、やがてユレイアは一つの案を思いついた。
「あ、じゃあ茶色にしないか?」
「いいですね、それ。」
「たのしみだな。」
「たのしみですね。」
「まったくユズハは。あれほど人の物を勝手に持ち出すなと言っておいたのに……。」
「ふふふ、でもまさかホントにずっと持っててくれるとは思いませんでした。」
「……ふん。」
嬉しそうなアメリアの言葉に、照れ隠しのようなゼルの返答。
アメリアが双子に話した事には続きがある。
あの後に立ち寄った町の宿屋でのことだ。
食事を終えたガウリイとリナは部屋に戻り、
ゼロスはいつものように、ふと姿を消している。
そんなわけでゼルガディスとアメリアが二人っきりになったとき、
ゼルはアメリアに、
「なんで突然あんなことがやりたいと思ったんだ?」
と聞いた。
「ちょっとまえにあんな感じの夢を見て以来、一度やってみたかったんです。」
照れくさそうに言うアメリア。
「夢、ねえ。」
「でもまさかリナさんがあんなに怒り出すなんて……。
やっぱりレッドがやりたかったんでしょうか。」
「違うと思うぞ。」
ゼルは一応ツッコミを入れる。
「せっかく役名を書いた護符を作ったのに、やっぱりもう使いませんかねぇ、これ。」
「ああ、使わんだろうな。」
「でもせっかく作ったのに捨てるのももったいないですよね。」
「ガウリイとゼロスは無くしたらしいぞ。」
「リナさんも破り捨ててました……。」
「まあ、あれだけ怒ってたんだから当然だな。」
にべもなくぜルは言う。
「あ、じゃあゼルガディスさん。ゼルガディスさんはずっと持っててくれませんか?」
「かさばる物じゃないから別に構わんが……。」
「約束ですよ!!」
その時のことを思い出しながら、ゼルは素っ気無く言う。
「おまえとの約束だからな。当然守るさ」
はい、ごちそうさまでした。
へろうちょさんから9万5000ヒットのお祝いとして頂きましたvv
アメリアたち原作四人組の話と、双子の話、一粒で二度おいしい短編です。いや本当に。読み進めていくうちに、顔がにやけて終いには笑いだしてしまいました。木に登っては激突していた正義娘が二児の母親になるんですから、時というものは偉大です(笑)
何より私が笑ったのが、双子の会話。今度みんなでやりましょうで、赤がクーン。6つ年上の彼女は忍耐を発揮して双子に付き合ってくれるでしょう。そしてティルトに最初ピンクを押したユレイアに母親の血を垣間見ました。最強だわ(笑)
双子はゼル似、アメリア似と分けずに、それぞれの特徴がばらけて遺伝しているように書いているのですが、意外な遺伝が発覚しました(笑)
ここでひとつ問題が。敵役は誰なんだろう(笑)
戦隊ものっぽい五色の壁紙とかないかなーと探したんですが、見つけ切れませんでした。無念。
へろうちょさん、どうもありがとうございました。嬉しいです〜、ふふっvv