Ria and Yuzuha's story:Second pray【楽園】〔終〕

 空間を渡って出現したゼロスは、ゆっくりとこうべをたれた。
 主である獣王はときたま、本来所属すべき精神世界面アストラルサイドではなく、枷のある物質界での感覚を楽しむことがある。水に濡れた体の一部を水面から突き出すようにして。
 覇王や海王の配下の者たちは精神世界面に活動の重きを置くが、獣王にそのような嗜好がある以上、ゼロスもそれに従っていた。主に似て、自分にも物質界を楽しむ傾向があるのは自覚しているところだ。
 服従の意は物質界ではこうべをたれることで表され、それを知るゼロスは主に対してわざわざそうしてみせる。獣王は獣王で、ひたすら性格の悪い部下をかなり気に入っていた。
「―――やはり、そろそろ限界がきているようです」
 ゼロスの報告を聞いて、すぐさま次の指令が下った。
 それを聞いて、ゼロスの表情がわずかに動く。
「放っておいてもよろしいのでは?」
「リナ=インバースがそこにいなければな」
「それはまあ、たしかに。リナさんなら何とかしてしまいそうですねぇ」
 何を思い出したのか、ゼロスの唇の両端が笑みの形に持ち上がった。
「何とかするのに代わりはなくとも、向こうが力を得るのはやっかいだからな」
「かといって、あそこがいま滅ぶともっとやっかい、ですか」
 神封じの結界は解けている。物質界へのささいな刺激で神族が介入してくると面倒なことになる。
「我らは千年待てた。もう千年、待てないこともないだろう」
 そう言って、獣王は思い出したように付け足した。
「覇王はそうでもないらしいが」
 嫌味でもなんでもなく、本当にそう思いついたので口にしたらしい主の様子に、ゼロスは喉の奥で笑う。
「派手にするな。それ以外はまかせる」
「仰せのままに―――」
 再びこうべをたれると、ゼロスはそのまま姿を消した。



 運命は動き出した。
 ひとつ目の歯車が廻りだす。
 廻りだした歯車は、それに噛み合った幾つもの歯車をもまた廻すのだ。





  ――End.