ねこ曜日(ハニー・チェイス)

 ソレは、木の上からユズハを見下ろしていた。
 よくぞ登れた、とほめたくなるようなでっぷりとした体。
 胡散臭げにユズハを見下ろしている目は、綺麗なトパーズ色だったのだが、ユズハにしてみればおやつのハチミツの色である。
 穴が空くほどたっぷりソレと見つめ合いながら、ユズハがさらに思い出したのは高級食材であるつやつや茶色のチョコレートだった。
 チョコレート色の毛並みとトパーズの瞳をしたネコは、ユズハからフイと視線を逸らすと興味がなさそうに枝を伝って王宮の塀の向こうへと悠然と歩いて行ってしまった。
 態度がでかい。
 このうえもなく態度がでかいネコだった。
 うむむ、とユズハは唸って、おもむろに――――


 木によじ登り始めた。

ねこ曜日(ハニー・チェイス)

 左手ででっぱりをつかみ、右足をくぼみに引っかける。
 そうして左足を一段高いところにある別のとっかかりへ引っかけて―――
 ずべし。

 ―――滑った。

 ずりずりずり。
 根本までへたれ落ちてきて、ユズハは唸って枝の方を見上げた。
 あの足音をたてて歩きそうなネコに登れて自分に登れないはずがない。
 これはいかにすべきか?
「浮ク」
 端的に即決すると、ユズハはぴょこんと立ち上がって改めて登るべき枝を眺めた。
 まさに浮こうとした瞬間。
「何してるんですか」
 ぺぱかんっと頭をはたかれて、ユズハは浮くのをやめて背後の人物をふり返る。
「りあ」
「浮くなとあれほど言ってるじゃないですか」
 アメリアが呆れたように、持っていた冊子でトントンと自分の肩を叩いた。
「のぼるの」
「ダメです」
 ユズハは不満そうに木の上を眺めた。
「それよりオルハは見つかったんですか?」
「あ」
「………忘れてましたね?」
「………えと、探ス」
「今日はもう遅いから明日にしなさい。ユレイアとアセリアが待ってます」
 言って、アメリアはユズハに手を差し出した。
 ユズハはそこに自分の手を重ねる。
「りあ」
「何です?」
「おるは、どこ行っタ?」
「どこ行ったんでしょうねぇ」
 ユズハの喧嘩友達である白ネコは、昨日から行方不明だった。



 その翌日。
「………何してるんですか」
 執務の合間に子ども部屋を覗きにきたアメリアは、双子がお茶菓子とにらめっこしているのを見て、思わず問いかけていた。
「かあさま」
「ははうえ」
 双子がそっくりな顔に同じように涙を浮かべて母親をふり返る。
「かわいそうでたべられません〜」
「なのにユズハはへいきでたべるんです〜」
 見れば、なるほど可愛らしいウサギを模したお菓子である。
 三つあるお皿のうち、二つはいまだに手つかずで、ユズハの目の前のお皿だけが綺麗に空になっていた。
「コレ、お菓子」
「でもひどいですぅ〜」
「だっテ、食べ物」
「そうですけど、ユズハはかわいそうだとおもわないんですか」
「だから、どしテ?」

『ふえええええええええん』

 双子が揃って泣き出した。
「…………」
 アメリアは頭痛をこらえるような表情で、双子をなだめた。
「はいはい。今度から料理長には、普通の形したお菓子にしてもらいましょうね。ユズハ、オルハを探さなくていいんですか?」
「探ス」
 ユズハが椅子から床に降りた。
「いってくる」
「あんまり遅くなっちゃダメですよ」
「ン」
 クリーム色の髪がぱたぱたはねながら部屋を出ていく。
 アメリアは、可愛らしい白いマシュマロに赤く目を描いたウサギのお菓子を眺めると、溜め息をついて、女官に別のお菓子を持ってくるように言いつけた。



「おるは、どこー?」
 ほてほて王宮を歩き回りながら、ユズハはオルハ失踪の原因を考えた。
 三日前。
「りあー、これナニ?」
 ユズハが頭の上に掲げた、淡い虹色の光を放つ水晶球を見て、アメリアは目を丸くした。
「それはルーンオーブですね。どこから持ってきたんです?」
「ンとね、ぜるの部屋」
「返してきなさいッッ!」
 旅の間に彼が見つけてきたものに勝手に手をつけるなど言語道断である。
 ユズハがぷぅと頬をふくらませた。こういう不満げな表情だけはうまく顔に出せるのだから手に負えない。
「えー」
「えーじゃありませんっ。勝手にいじったなんてゼルガディスさんにバレたら怒られますよッ」
 アメリアはユズハの手からオーブを取り返そうと詰め寄った。
 ユズハは慌てて、上を見て下を見て右を見て左を見て―――。
 左のソファに寝ているオルハを見つけた。
「おるは、パス」
「パス!?」
 思わずアメリアが悲鳴をあげる。
 寝ていたオルハは不穏な気配に薄目を開け―――直後、降ってきたオーブに撃沈された。
「あああっ、オルハっ」
 慌ててアメリアがオルハを抱き上げてリカバリィを唱え始める。
 ユズハはと言えば、首を傾げてオーブを持ち上げた。
 目を回していた白ネコは、正気づいてから恨みがましくユズハを見て一声鳴いた。
「ユズハ、いまのはユズハが悪いです。ちゃんとオルハに謝ってください」
「ン、すまん」
 オルハがアメリアの腕から飛び出す。
 ぺこりと下げられたそのクリーム色の後頭部を蹴って床に降り立つと、オルハはさっさと逃げ出した。
「………えと、蹴られタ」
「仕返し………ですかね」
 後頭部をさすりながらユズハがきょとん、とアメリアを見ると、彼女は溜め息混じりにユズハに告げた。
「いいですか? オルハの肉球じゃ投げたものは受け止められないんです」
 ユズハの頭のなかに、ぽんっとオルハの肉球が思い浮かんだ。
 次いで、その肉球が真剣白羽取りの要領で飛んできたオーブを受け止めようとしているところを思い描く。
 受け止めるどころか潰されてジタバタしているところまでシュミレートしたところで、ユズハはようやく、こくこくうなずいた。
「ン、おるはムリ」
「わかってくれましたか?」
「肉球ジタバタ」
「…………は?」
 アメリアの表情がひきつる。
「だから、コレはゆずはが持つー」
「あっ、待ちなさい。だからそのオーブはゼルガディスさんの………!」
 ………というのが三日前の出来事である。
 どこかにオルハが連れていかれたという記憶は微塵もない(もちろん何か悪いことをしたという自覚もない)。
「ン、探ス」
 とりあえず、ユズハは心当たりの場所を全部まわってみることにした。



「何? 猫の居所なんぞ、おれが知っているわけがないだろうが」
 ペンを片手にゼルガディスが思いっきり顔をしかめた。
「ほんと?」
「隠してどうする………」
 げんなりとした表情で、ゼルガディスはインク壺のフタをきっちり閉めた。ユズハの近くでフタの開いたインク壺やビン類は厳禁である。
 そこで、ハタと思い出したようにユズハを睨みつけた。
「そうだ。お前この間勝手におれの部屋に入っただろう。物の配置が………」
「おるは、どこ」
「―――その前に人の話を聞けッ! だいたいオルハもお前につきあいきれなくて家出でもしたってところなんだろうが!」
 ユズハが朱橙の瞳を大きくまばたかせた。
「いえで?」
「そうだ。猫の身で始終お前につきあっていたら、命がいくつあっても足りん」
「いえでって、ナニ?」
「…………そうか、そーいう単語はまだ覚えていないのか………。ぞよだの、おじゃるだのはどこからか覚えてきやがるくせに………。ユレイアとアセリアに口癖が移ったらどうするんだ………」
「いえでってナニ? カエデの友だち? ならハチミツとれル?」
「楓から採れるのはメープルシロップだッ。蜂蜜は採れんッ!」
 思いっきり突っ込んだあとで、ゼルガディスは我に返った。
「あー、もういいから猫探しに行ってこい」
 投げやりに手をふるゼルガディスに、ユズハはしつこく食い下がった。
「いえでってナニ」
「お前な………」
「いえでってナニ!?」
「…………!!」
 憤然と頭を抱え込んだあと、ゼルガディスは疲れた表情で戸口を指さした。
「いまいる場所が気に入らなくて、そこを出ていくことだ。わかったんならさっさと行け………」
「出てク………」
 ユズハが唸った。


 オルハは家出をした(ゼルガディス談)
  ↓
 家出とは、ここから出ていくこと(これまたゼルガディス談)
  ↓
 ならオルハは王宮(ここ)にはいない。
  ↓
 ならオルハがいる場所は外である。


「………!」
 ぽん、とユズハは手を打った。
「ありがとウ」
 めずらしく素直にユズハが御礼をいったので、ゼルガディスはやや面食らったような表情でうなずいた。
「あ、ああ……ならもう行け」
「ン、外行ってくル」
 ぱたぱたと軽い足音が遠ざかって、扉が閉じた。
 ―――数秒後。
 インク壺のフタを開け直そうとして、ゼルガディスは硬直した。
「外に行ってくる………だと?」



 外への近道として中庭を通り抜けていたときだった。
 視線を感じてユズハはふり返る。
 風が不気味に吹き渡り、一瞬のうちにそれはシンと途絶えて、ユズハとそのモノは真っ向から睨み合った。
 茶色い毛並みの中央に飴玉みたいな琥珀色の目が輝く、昨日のネコである。
 ―――というのも、実はほんのわずかな間のことでしかなく、現実はと言えば目があったものの、フイッとネコの方から視線を逸らされた。
 愛玩系の―――人に飼われる類の動物と目を合わせていると、照れるじゃないかコンチクショウとばかりに視線を逸らされることがあるが、『そういう逸らし方』ではない。
 相手にしてらんないワ、と言う鼻笑い系の『逸らし方』である。
 オルハ以外の(おそらく野良の)ネコにそういうあしらいを受けたユズハはと言えば、淡々とその木の上のネコに指を突きつけた。
「ちょこれーと、と、あめだま………で、ぶたさん?」
 途端、ギッと逸らされていた目が元に戻った。チョコレートと飴玉とブタと、どの扱いに腹を立てたのかまではわからないが。
 再び、二者の視線が火花を散らせた。
 そのとき。
「………ア」
 ふいにユズハがまばたいた。
 そうして、その朱橙の瞳が茶色のネコの姿をとらえなおす。
 次の瞬間、ネコは形容しがたい鳴き声と共に木の上から、飛び降りる間もなく飛び落ちた・・・・・
 ユズハが宙をすっ飛んできてネコを捕獲しにかかるという、掟破りの反則技に出てきたからである。
 掟破りどころか、昔から誇り高く生きてきたネコという動物は、今までこんな天敵に遭遇したことがない。本能に組み込まれる掟以前の問題で、未知ナル恐怖というやつだ。
「逃げナイ!」
 勢い余って高速で枝葉の塊のなかに突っ込みながら、ムチャクチャなことをユズハが言った。
 普通は逃げる。誰でも逃げる。というか、この状況で反射的に逃げられるからこそネコなのである。―――いくらブタ呼ばわりされようと。
 着地しそこねた地面の上で身を起こすと、脱兎のごとく(猫だが)茶色の塊は逃げ出した。
 葉っぱを盛大にまき散らしながら、すぐさまユズハも方向転換して追いかける。

 ―――人外のモノ同士の壮絶な追いかけっこが始まった。



 結局、双子たちのおやつの時間が終わるまでつきあっていたアメリアは、いつになく嫌な表情をしてドアを開けたゼルガディスを見て、首を傾げた。
 忌々しさを乗り越えて、頭痛をこらえ、さらに眩暈を覚えていれば、そういう表情になるだろうか。
 彼がこういう表情をするとき、原因はただひとつ。
「ユズハがどうかしました?」
 ますますゼルガディスの表情が嫌そうになった。
「どうしてわかる?」
「旅してた頃、よーくそんな表情してました。自覚ナイですか?」
「顔が変わってるぞ」
「全然変わってません。―――それでユズハがどうしたんです? オルハを捜しに行ってまだ戻ってきてませんけど」
「それなんだが、どうやら外に………、ユレイア?」
 双子のうちの一人が、わざわざ椅子から降りて父親の側まで来るとクイクイと服の裾を引っ張って部屋のある一点を指さした。
 そこには、いつのまにか窓際まで椅子を押していったアセリアが、窓ガラスにべったりと額をくっつけて外を眺めている。
「とおさま。かあさま。カスタードクリームがチョコレートをおいかけてますぅ」
「……………………………壮絶にイヤなんだが。その光景」
「ゼルガディスさん、甘いモノ嫌いですからねえ」
「…………………」
 入り口近くで両親が固まっているうちに、アセリアがよじ登っている椅子にユレイアもとりついた。
「アセリア、わたしもみたい」
「おさないで〜」
 ひょっこりとユレイアを抱え上げたアメリアが、双子と一緒に窓から中庭を覗き込んだ。
「………ほんとにカスタードとチョコレートに見えますねぇ。あれ、どこのネコなんでしょう?」
「その前に止めろ! どうせまたぷかぷか浮いてるんだろうがっ!」
 観念して窓際までやってきたゼルガディスが、勢いよく窓を押し上げた。
「おいユズハ! 何やってる!?」
「―――捕まえルッ!!」
 簡潔すぎる言葉がすさまじい速度で返ってきて、ゼルガディスがそれに絶句している間にカスタードとチョコレートは―――違う、ユズハとネコは中庭の生け垣を越えて建物の角を曲がり、視界から消えてしまった。
 しばらく無言でセイルーンの一家は一人と一匹が消えた方角を見送り―――
「外、出ちゃいましたね」
「結果的にオレの行った通りか」
「かあさま、オルハは?」
「ちちうえ、ユズハは?」

『……………』

 二人は無言で顔を見合わせると、深々と嘆息した。



 ユズハが帰ってきたのは、日が暮れる寸前だった。
 いったいどこでどうしたのか、細くて真っ直ぐな髪は泥に汚れてぐしゃぐしゃで、朝着ていた服ではなく以前から見慣れている、髪と同色のローブになっており(つまり服をなくしたということだ)、トドメとばかりに両脇にそれぞれ『ナニカ』を抱え込んでいた。
「ユーズーハ!! ひさしぶりに何してるんですかあなたは!?」
 アメリアの声に気づいたユズハが、夕闇迫るなかアメリアとゼルガディスのいる二階の窓を見上げて、ぶんぶか首をふった。どうやら手をふりたいが塞がっているゆえ、頭をふったらしい。
 そのちまい両腕には何やらのたうちまわるモノが二つ、しっかりと抱えこまれている。
 ひとつは白い。
 それはだいたい予想はつく。哀れすぎて指摘する気も起きないが。
「ユズハ! そのもう一方の茶色いものは何なんですか!?」
 茶色い。
 言われてユズハはもう片方の腕で抱え込んだぼってりしたモノに目をやって、わずかに首を傾げた。
 茶色い。
「えと………ちょこれーと?」
「めいっぱい違うッッ!!」
 ゼルガディスが突っ込む。
 ユズハがもう片方のオルハを放り出し、両手でその茶色の物体を抱え上げた。
「ぶたさん」
「似てるけどそれも違いますっ」
 ユズハは困ったように首を傾げた。
「なら、ねこ?」
「どう見てもそうだろうがッ」
 ゼルガディスが窓枠をひっつかんで身を乗り出した。
「だいたい白い方を捜しに行って、なんでもう一匹増えて戻ってくるんだ!?」
「えと、勝っタ」
「またですかっ!?」
 今度はアメリアの方が窓枠から身を乗り出した。それを慌ててゼルガディスが押さえる。
 ユズハの様子から判断するに、あのオルハよりもでかい茶色のネコはどうやらオルハよりもかなり手強かったようである。それでも戦意喪失させるまで張り合って、ここまで連れてくるのだから非常識というか何というか。
 しかし、ことの経緯がさっぱりわからない。
 オルハを捜して、いつのまにか茶色いネコと追いかけっこをしていて、戻ってきたら、ちゃっかりオルハも捕まえてきているのである。
 ―――カスタードとチョコレートとメレンゲか?
 そう思いついてしまって、ゼルガディスは自分自身の想像した甘い物にちょっと気持ちが悪くなった。
「ユズハ!」
 彼の横でアメリアが叫んでいる。
「とりあえず、あなたはお風呂です! そのネコも! オルハも!」
「えー」
「えーじゃありませんっ、夕飯抜きますよ!!」
 アメリアの言葉に、かなり情けない声音でオルハが鳴いた。



 その夜。
「ねこですねこですー」
「このねこ、オルハのお嫁さんですか?」
 洗われてココアパウダーをふるわれたような毛並みになったネコが、憮然とした顔で―――本当にそういう表情をしているのである―――双子に撫で回されている。
 本当はイヤなのだろうが、さんざん洗われて抵抗することすら面倒くさいらしい。
 その横では、オルハがぐったりしてノビていた。
 さらにその横では、椅子に腰掛けたユズハが今日の出来事をアメリアとゼルガディスに説明していた。
「木の上にいテ、オルハの気配、ついてタの」
 それで追いかけて追いかけて、逃げ込んだところにオルハもいたというわけである。
 オルハを発見した時点で「二匹なら勝てる!」と踏んだのか、茶色い方が仕掛けてきたので大乱闘になったというのだが。
「こいつにケンカ売るほうが間違ってるぞ」
 思わずそう言ったゼルガディスを、茶色いネコがその蜜色の瞳で、それがどうしたとばかり睨んだ。
 何でもいいが、迫力と貫禄に事欠かないネコである。
「だいたいオルハ、いつのまに彼女と知り合ったんですか? まあ家出先としては妥当なところですけど。でもよくユズハにその体でケンカ売りましたねぇ」
「彼女?」
 怪訝な顔で問い返したゼルガディスに、アメリアは平然として答えた。
「だってお腹に赤ちゃんいますよ」
「雌だったのか!?」
「聞き返す場所はそこじゃないと思うんですけど」
「雄だとそれ以前の問題だろうが」
「それはそうですけど………」
 アメリアとゼルガディスの話を聞いていた双子が、撫で回すのをやめてびっくりしたようにネコを覗き込んだ。
「赤ちゃんがいるんですか?」
「オルハがおとうさん?」
 ゼルガディスは首を傾げた。
「さあな。生まれてくればわかるだろうさ」
 その言葉に、アセリアとユレイアがぱああっと顔を輝かせる。
「じゃあ、それまでこのねこさん、ここで飼ってもいいんですね!?」
 ゼルガディスは反射的にしまったと顔をしかめかけて、双子に見えないところでアメリアから思いっきり足を踏まれた。
「それはねこさんが決めることですよ。はいはい、今日はもう寝ましょうね」
 優雅な所作でソファから立ち上がるとアメリアは、オルハとそのネコをベッドから降ろした。
 ネコたちにねぎらいの言葉をかけてやる。
「今日は本当におつかれさまでした」
「おつかれサマ」
 ユズハにのほほんと言われて、ネコが二匹ともじろりとそちらを見たが、見られたほうはいたって呑気に首を傾げた。
「ちゃんと、手加減しタぞよ?」
 お腹に向かって指をさされて、ネコはだから面白くないとばかりにそっぽを向いて丸まった。


 白と茶とブチの新しい家族が増えるのは、もう少し先の話である。