時の旋律 第零章 こぼれ落ちた風景

 耳元で唸る風。
 体をおおう粘質の闇。
 融け崩れていく身体。のばした指先が弾かれて、砕ける。
「………ッ!」
 意識に亀裂がはしる。
 腐臭がした。
 耐えきれなくなる寸前、力強い腕に抱きしめられた。
 ぽつりと耳元で囁かれた言葉は、風の唸りで届かない。
 温かい液体が体を満たして、流れていく。

 暗くなってゆく視界の中、最後に見たのは蒼い瞳。



 踏み荒らされる。
 壊されていく。
 その叫びはだれにも届かない。
 目の前で、光は閉ざされ、深く暗く押しこめられる。
 蒼い瞳がどろりと融け崩れて、すべてを閉ざした。



 無くしたのは、何?
 こぼれ落ちたのは、何?
 光はどこ?
 あなたは、どこ………?