今日はスレイヤーズ学園初等部の聖劇発表会の日です。
聖劇とは要するに、アレです。
イエス・キリスト誕生の経緯を追う劇なのですが、そこは小学生のやるものです。はしょりにはしょられて、聖母マリアと天使ガブリエルの受胎告知の場面と、救い主誕生のお告げを受けた羊飼いたちと三人の博士たちが、それぞれの貢ぎ物を持って出発する場面、そして最後に全員が生まれたばかりのイエス・キリストの元に集う場面の三つだけを演じるのです。
どうやらスレイヤーズ学園はミッション系のようですね。どうしてなのかは深く考えてはいけません。きっと誰も知らないのです。
楽屋代わりの教室で、シルフィール先生がなぜかげっそりした顔で、衣装を着終わった生徒に言いました。
「お願いですから、動き回って衣装をダメにしないでくださいね………。とくに羽根のついているアメリアさんと、リナさんは動き回っちゃダメですよ」
「はーい、わかりましたー」
元気良くアメリアが返事をしました。彼女は聖母マリアにイエスの受胎を告げる、大天使ガブリエルの役です。
反対にリナはぶすっとした顔つきです。ただの天使だからです。もちろんアメリアとは衣装も羽根も違います。単にじゃんけんで負けたのです。二人とも三年生です。
部屋の隅っこでは、三年生のゼルガディスと四年生のミリーナが博士の扮装のまま、おとなしく座っています。同じく四年生のルークがしきりとミリーナに話しかけているのですが、あっさり無視されています。ちなみにルークは六年生のザングルスと一緒に羊飼いの役です。
フィリアは聖母マリアの衣装を着ておとなしく端座していますが、聖母だというのに笑顔は引きつり、何やら空気がぴりぴりしています。
その横で、いつもニコニコ笑顔を絶やさないゼロスが面白そうにフィリアを眺めています。彼が、マリアの夫のヨセフ役です。大変残酷な運命のイタズラ―――要するにクジ引きでそう決まってしまったのです。運命とは時として皮肉なモノです。
聞いた話によると、クジ引きの結果を知ったシルフィール先生は職員室に引っこんだまま小一時間は出てこなかったとか………。
校内の器物破損は全て、リナが暴れて壊すか、ゼロスにからかわれたフィリアが同じく暴れて壊すかなので、無理もないでしょう。
ぎすぎすしたマリアとヨセフの空気から少し離れたところで、クジ引きでヨセフ役を逃してしまい、博士役になったヴァルガーヴがぽつねんと座っています。
この問題ありまくりのフィリアたちは、三人ともいちばん年長の六年生です。
校内でいちばん仲の良いマルチナとザングルスは何やらいちゃいちゃしています………君たちは小学生ですよ?
ちなみに、四年生のマルチナは博士たちを導くベツレヘムの星の役です。頭に星の飾りをつけた羽根のない天使のような格好です。
さて肝心のイエスなのですが、ここまできたら誰なのかわかりますね。四年生のガウリイです。いつもは人形を使うのですが、セリフを覚える必要もなく、ただ寝てればいいというので問答無用で彼に決まったのです。
リナは最初は聖母マリアをやりたがったのですが、ガウリイがイエス役と知るや、あたしこんなののおかーさんだなんてやーよと言いだし、シルフィール先生の顔を思いっきり引きつらせました。
あ、そうそう。ナレーターもちゃんといるんです。くるくるの緑の目が愛らしい、いつもおとなしいアリアです。
「そろそろよいかの。父兄の方々もお集まりじゃ」
ドア越しに、フィル校長先生の声がしました。
決して教室の中には入ってきません。フィル校長先生の顔は……その……何というか……生徒たちには刺激が強すぎて、一目見ただけで泣き出す生徒も多いのです。子ども好きの良い人なのですが………。
シルフィール先生が、みんなを一箇所に集めました。
「それじゃあ、みなさんがんばってくださいね。どーしてもセリフを忘れてしまったときは仕方ないから神様にでもお祈りしてみてください。神様は何も教えてくれないでしょうけど、運が良ければ自力で思い出すことができるでしょう」
「………いーのか、それで………」
リナとゼルガディスがぼそっと呟きました。
何はともあれ、二十世紀最後の聖劇発表会が始まります。
「第一幕。ガブリエルのお告げを受けるマリアさま」
天使に扮したナレーターのアリアがそう声をはりあげると、幕がするするとあがりました。
この場面、登場するのはフィリアとアメリアの二人だけです。
二人とも良いコなので、セリフも演技も完璧に覚えています。
つつがなく舞台は進行するはずでした。
「おそれることはありません。わたしは神のみむねを伝えにここに来たのです。マリア、あなたは
主に選ばれたのです。あなたから救い主がお生まれなる」
アメリアこと、大天使ガブリエルは無事セリフを言い終えました。
両腕を胸元で組み合わせ、膝をついたマリアは教えられたセリフを言おうと、ガブリエルを見上げて―――。
その背後、舞台袖であっかんべーをしている夫ヨセフ―――ゼロスと目があってしまいました。
何やら黒いオーラが立ちのぼります。まかりまちがっても『
天子の
御母、聖マリア』が出す気配ではありません。
(あ、あの……フィリアさん……?)
大天使ガブリエルがが引きつった表情で聖母マリアの様子を伺います。
フィリアが頭からひきかぶっている、シルフィール先生お手製のベールが、ゆらりと揺らめきました。
組まれた両手が、ビシバシ引きつって血管が浮き出ています。
「私は主のはしため。つつしんでお言葉にしたがいます。ええ、したがいますとも! あんなのと結婚するくらいなら、未婚のシングルマザーのほうが何倍もマシですっ。救い主は私ひとりでりっぱに育ててみせますっっ」
(ちょっと待ってフィリアさあああんっ!)
最上級生のフィリアにキレられて、三年生のアメリアがパニックを起こします。
舞台袖ではシルフィール先生が失神寸前です。
しかし、何とか危ういところで踏みとどまったシルフィール先生は、カンニング用に持たせてあった通信機のうちアメリアの方のスイッチを入れました。神様に祈れだのなんだの言うわりに、けっこうシルフィール先生は優しくて心配性なのです。
(アメリアさん、アメリアさんっ。聞こえますか !? いいから聞こえなかったフリしてセリフを言ってくださいっ)
(えっ、あっ、え、えええっ !?)
(その子は、イエスと名付けなさい。はい !!)
「そ、その子…は………イ、イエスと名付けなさい……」
何とかアメリアはセリフを言い終えました。まるでオウムです。
(アリアさん、ナレーション!)
「は、はいっ。こうして、マリアさまは神さまのしゅくふくを受けて、イエスさまのお母さんになることになったのです」
(幕っ。幕降ろしてください! ウィレーネ先生っ)
こうして、第一幕は終了しました。
第二幕はインターミッション的な短いもので、ヨセフの夢にガブリエルが現れて、マリアに主である神のひとりごが宿ったことを告げるたったそれだけの場面なのですが………。
「やめましょう」
「ええ、そうしましょう」
シングルマザー発言ですっかり怯えてしまったシルフィール先生とウィレーネ先生の正しい判断によって急遽取りやめになり………ませんでした。
アメリアが、怯えて泣きながらも、自分の出番が減ることをイヤがったからです。
大天使ガブリエルは、ここを過ぎると最後のフィナーレまでもう出番はありません。
さすがにアメリアが可哀想になって、二人の先生は顔を見合わせました。
ヨセフは寝ていてセリフがないはずなので、何とかなるかもしれないと甘い期待を抱いたのです。
結局、シルフィール先生はアメリアに通信機のボリュームを最大に上げておくように言って、舞台へと送り出しました。
しかし、甘い期待は言葉通り甘かったのです。
ええ、それはもう甘々でした。
何てったって、相手はゼロスなのです。
アメリアの長いセリフが舞台の上では続きます。
「なやむことはありません。あなたの妻マリアは神のひとりごを宿したのです。あなたは救い主の父となるのです」
健気なガブリエルが必死にセリフを言い終わると、場面が暗転してそれで第二幕は終わるはずでした。
残念ながら、アメリアのその健気さも全く報われません。
暗転した舞台からヨセフの声が聞こえてきたのです。
(ああ、そうなんですか。てっきりヴァルガーヴさんあたりと浮気でもされているのかと思ってシクシク悩んでいたんですよ。ああ、これは寝言です)
(う、浮………!? ふえっ……ふえええぇんっセンセええええぇぇっ! ゼロスさんとフィリアさんがあああぁっ !!)
(ア、アメリアさん………!)
(マイク、マイク切って早くっ)
(だぁれがヴァルガーヴと浮気ですってえええっ !? 私たちはまだ子どもです! そんなフケツな………っ)
(そうだふざけんなテメェ !!)
(おや、ちがうんですか?)
(お願いだから舞台に出てこないでっ。ゼロスっ、あなたもさっさと袖に戻りなさい!)
(ふえっ、ええぇっ………ゼルガディスさ〜ん、イエスさまってこんな家庭環境でお生まれになったから救い主なんですかぁ……えっ、えっ)
(………ちがうから、断じてちがうから、泣くな………)
(幕、幕降ろしてくださいっ。アリアさん、ナレーション! 大声で!)
「はいいっ。こ、こうして! ヨセフさまは夢のなかでガブリエルに! マリアさまから神さまのひとりごが生まれることを知らされたのです !!」
こうして第二幕は終了しました。
見ていた中等部の生徒は呆気にとられ、父兄たちは赤くなったり青くなったり、思うところがあるのか胸を押さえて冷や汗をだらだら流したりしました。
中等部のなかには、アリアやリナやアメリアのお姉さんたちもいて、それぞれ初等部のときに立派に聖劇を演じたはずです。
初等部の間から全員一致でマリア役に選ばれたという、輝かしい経歴をもつアリアのお姉さんのベルは妹の精神状態に心を痛めながらも、おもしろそうに見ていました。けっこう剛胆です。
マリア役とヨセフ役の生徒を心の底から怯えさせたという、祝福しに来たのか脅しに来たのか全くわからないガブリエルを過去に演じたリナのお姉さんのルナは、にこにこして見ていました。
まだリナが出てきていないので、あくまでも他人事。おもしろい見せ物です。
これでリナがセリフなどをミスれば、笑顔のおしおきが待っているのでしょうが、とりあえずいまは平気なようです。
過去に貢ぎ物をくすねようとした東方の博士を演じたアメリアのお姉さんのグレイシアさんは………どうやら寝てしまっているようです。
マイクのハウリング音や、アメリアの泣き声やフィリアの金切り声に、ゼロスとヴァルガーヴのとっくみあいの音やらリナのスリッパの音やらに混じって、もはや涙声のシルフィール先生の声が、しばらく幕の後ろから聞こえてきましたが、やがてそれも静かになり、どうやら幕間に挟まる合唱と第三幕が始まるようです。
………って、まだがんばるのね。シルフィール先生………。
みんなが声を張り上げて唄っている歌は「お星が光る」です。
歌詞が正しいかどうかなんて聞いてはいけません。もはや十五年前のことなど作者が覚えているわけがないのです。曲名も正しいのかわかりません。
♪お星が光るピカピカ
砂漠を越えてピカピカ
あれはあれはなんだろう?
お星が光るピカピカ
「第三幕。三人の博士たち!」
もはやアリアはやけくそです。
ですが、だいじょうぶ。
この場面は、輝くベツレヘムの星に導かれて、三人の東方の博士がそれぞれ捧げモノを持って旅立つ場面。
舞台には、落ち着きのあるゼルガディスと沈着冷静なミリーナ、そしてまともな思考回路のヴァルガーヴと星役のマルチナしかいません。
目立ちたがりのマルチナがちょっと高笑いを始めたことと、先ほどのゼロスとのケンカでヴァルガーヴの目の周りがが少しはれていること以外は、つつがなく舞台は進んでいきました。
シルフィール先生とウィレーネ先生は、ほっと胸をなでおろします。
ちなみに三人の博士の名前は、カスペール、メルキオール、バルタザールと言うそうで、この三人のことはマギと呼ばれるそうです。そう、某エ●ァのコンピュータの元ネタです(笑)。
ああ、話がそれてしまいましたね。
平穏無事に第三幕は終了です。
「こうして、救い主をさがして三人の博士は、星をめざして旅にでました」
アリアもどうやら落ち着きを取り戻したようです。
さあ、次は第四幕。羊飼いたちの場面です。この間にもやっぱり歌が入ります。
今度は「あめのみつかい」です。
♪あめのみつかいの 歌声響く
星影さやかな 牧場の空に
Gloria in excelsis Deo(いと高き神に栄光)
貧しいうまやの めぐみの御子に
ほめうたささげて 喜び歌う
Gloria in excelsis Deo
「第四幕。天使のお告げを受ける羊飼いたち」
最初にちょこっとアリアのナレーションが入ります。
やっと出番がまわってきたアリアはちょっと嬉しそうです。
「ベツレヘムの近くでは、羊飼いたちが、一晩中羊の群の番をしていました」
しかし、それもつかの間。
せっかく舞台が持ち直したというのに、明らかにザングルスもルークもやる気がありません。羊をほっといて寝そうな気だるさです。
ガキ大将のルークは羊役の生徒を棒でつつきだす始末。
通信機からシルフィール先生の注意が飛びます。
(あなたたちっ、真面目にちゃんとやってください!)
ルークがかったるそうに羊を追う棒で、第三幕からずっと立ちっぱなしの星のマルチナを指し示しました。
「おい、なんだあの光は(棒読み)」
見事なまでの棒読みです。
もはや声もなく立ちつくすシルフィール先生の手から、ミリーナが静かに通信機を取り上げました。
(ルーク、まじめにやらないと、これからあなたとは二度と口をききませんから、そのつもりで)
「 !! 」
これは効果てきめんです。
ルークがザングルスの襟首をひっつかみました。
「おい、見ろよ! 星だ! 星があんなに光っているっ !!」
「み、見える。見えるからゆさぶるなっ!」
ザングルスはルークから逃げながら、星にウインクを送りました。
「あんなかわいくてキレイな星が見えないわけないだろ?」
「………いや、キレイっつーのは大事なベツレヘムの星だし、話の流れからして、あたりまえなんじゃ……」
放っておくと、どこまでも果てしなく脱線していきそうです。
しかたなくシルフィール先生は、早々に天使を登場させてしまうことにしました。
リナです。
そのリナも、これまでの舞台展開にもはややる気をなくしかけていましたが、お姉さんが見ている以上、手を抜くことなどできません。
星のマルチナが立っているそばまで歩いてくると、羊飼いたちに向き直ります。
背は低いのに、なんか偉そうです。
「おそれることはありません。あなたたちにうれしい知らせです。今日ベツレヘムで救い主がお生まれになりました」
「………いやべつにおそれてねーけど」
「あんまうれしくないし」
リナのこめかみに青スジが浮かびました。
ムカついたので、急遽セリフを変更してやたら難しい言葉に直します。たとえ三年生でもリナは賢いのです。
「今宵ダビデの街ベツレヘムで、汝ら民草すべてのために救世主が御生誕なされた。この方こそ汝らが待ち望んでいたメシアである。あの星に導かれ訪ねるがよい。汝らは、布にくるまり飼い葉桶を
褥に微睡む、乳飲み子を見つけるであろう。これは御身らへのしるし、めでたし
聖徴である」
「ちの………何だって? 血をのむのか?」
「せいちょう……ってなんだ? 背が伸びるのか?」
「さあ? とりあえず顔を見にいくか」
「そうしよう、そうしよう」
最後のセリフだけが、シナリオ通りだったのは言うまでもありません。
ちなみに"聖徴"とは聖なるしるしのことのようです。これも正しいかどうか(以下同文)。
天使のリナは客席から見えないところで、フッと二人を鼻で笑ってやりました。
「く・ら・げ・並!」
「………天使から話を聞いた羊飼いたちは………救い主の誕生をお祝いするため、ベツレヘムをめざしました………うう……」
アリアは再びくじけそうになっていました。がんばれ。
いよいよ舞台は最終幕。
家畜小屋のセットの中央には飼い葉桶(ちょっと大きめ)が置かれて、そこに文句を言いながらもおとなしくガウリイが入ります。上から無造作にばさばさワラがかけられます。
それをはさむようにマリアとヨセフが座り、ばちばちと火花を散らします。どうも夫婦円満とはいかないようです。
そこに星に導かれた羊飼いたちと三人の博士がおとずれ、それぞれの貢ぎ物を捧げ、幾つかの会話を交わしてナレーション、そしてフィナーレとなるのですが………。
「なんか、かくかくしかじかで、んでここに来た」
「ほう、それはそれは。大変な苦労をなさったんですねえ」
聖母マリアのこめかみがピクピクと引きつりました。
「何ですかルークもザングルスも! かくかくしかじか? セリフを忘れたなら素直に忘れたとおっしゃい!」
「いや、舞台の上で素直にそう言うのはマズイんじゃ………」
「まだ、かくかくしかじかのほうがいいと思うぞ………」
「そこの生ゴミも適当な相づちなど打たないで!」
恐れをなした羊役の生徒たちが、飼い葉桶の周りに伏せて頭を抱えます。
もはやマリアとヨセフには目もくれず、三人の博士たちは、それぞれの貢ぎ物、没薬、乳香、黄金の小道具をその周囲に置きました。
「どうせなら食い物がいいよな〜」
主イエスの頭を問答無用で背後に控えていた天使がスリッパではたきました。
「ものの価値を知らないとは恐ろしいな………」
「まったくです」
ゼルガディスとミリーナが頷きあいます。別に意味であなたたちも小学生ですかと訊きたくなるのですがね。
バックでは天使に扮した合唱役の生徒が、並んで歌を歌い始めます。
たとえどんな経過をたどろうと、救い主の家庭環境がまずかろうと、フィナーレはフィナーレなのです。
♪世界で初めのクリスマスは
ユダヤの田舎のベツレヘム
宿にも泊まれず家畜小屋で
マリアとヨセフのふたりきり
Gloria gloria gloria gloria in excelsi………
「なんですってええぇっ。こんなのと二人きりだなんて冗談じゃありません! 私はさっさと戸籍登録して帰りますっ。だいたい身重のマリアに百二十キロ近くも旅をさせるなんてアウグストも旦那のヨセフも何考えてるんですかっ !? 信じられませんっ」
案の定フィリアが騒ぎ出しました。もはや聖劇とは関係ない背景考証にまでケチをつけています。
(あああっフィリアさん、二人っきりじゃありません! もうすぐ増えますからっ。続き早く唄ってあげてください!)
パニックのあまりシルフィール先生は、ミもフタもないことを口走っています。
曲の間奏がすっ飛びました。
♪赤子のイエスさま草の産着
揺りかご代わりの飼い葉桶………
「なあ、オレいいかげんカラダ痛くなってきたんだけど、出てもいいか〜?」
「ダメに決まってんでしょ、ばかクラゲ! 生まれてすぐに歩き出すのは別の宗教なの! いいから寝ててよ、うっとおしい。ホントに一コ上の学年なのかしら………」
「リナさん、劇……劇………」
「アメリア、天命だと思ってあきらめろ………」
「ううっ、えっえっ………せっかく、ガブリエルになれたのにぃ………」
「ミリーナ、その博士の衣装似合ってるぜ

」
「………最低な羊飼いもいたもんですね」
「ダーリン、羊飼いのカッコもす・て・き

」
「お星様の子猫ちゃんの方がいちばんステキさ」
「………こっちはほっとこ。だーから飼い葉桶から出るなっつってんでしょ!?」
「だってイタイんだよ〜」
「で、聖霊の仕業だなんていっておいて、やっぱりヴァルガーヴさんと浮気をしていたんですか? マリアさま?」
「なんで聖母マリアがオレと浮気なぞせにゃらんのだ!? ふざけるのもいいかげんにしろゼロス!!」
「聖霊を馬鹿にするだなんてっ! ゼロスさん、あなた本当にクリスチャンなんですか!?」
「ああ、ついにアメリアも壊れたか………」
「クリスチャン? い〜え、僕はこの学園に通ってるだけであって、クリスチャンなんかじゃありませんよ。だれがそんなバテレンな宗教に帰依するんですか。僕は真面目な仏教僧です」
「バテレン……っていつの時代だオイ(汗)」
「あんた坊主なの !?」
「ええ、墨染めの衣が似合う氷の君とは僕のことで………」
「なーんかアンタの言うそのカッコって、おかっぱ頭とあわせると妙にお稚児さんっぽいんだけど………」
「………!?」
「ほほほほっ、生ゴミゼロスにはそれがお似合いよっ。せいぜい般若心経でも唱えてなさい!」
「〜〜〜フィリアさんあなたこそ、本当にシスターを目指しているんですか !? こんな慎みもへったくれもナイ方が神の花嫁になるようじゃ、イエス・キリストも落ちたものですねっ。ロザリオが泣きますよ!」
「ぬあああああんですってええええええぇっ !?」
……………………………………。
もはやだれにも止めることはできません。
舞台袖で死んだ魚のような目をしているシルフィール先生とウィレーネ先生のところに、ナレーターのアリアがやってきました。
はっきりいって目が据わっています。
かなりコワイです。
「幕、降ろしてください。先生」
「あ、ああ、はい………」
降ろされた緞帳の前で、アリアは一人マイクを手にしてにっこり笑いました。
ひきつってます。やっぱりコワイです。
「それではこれで、初等部のクリスマス聖劇発表会を終わります。父と子と聖霊の御名において、アーメン」
つられてアーメンと返す客席に向かって、アリアはにこやかに手を振りました。途中、何かの拍子に緞帳の下からひょっこり出てきたゼロスの顔にマイクを叩きつけて追い返すと、凍りつく客席に向かってにこにこと言いました。
「お見苦しいものお見せいたしました。お目汚しとなったことを深くお詫び申し上げます。それではどうか、良いクリスマスをお迎え下さいな♪」
お終い。