珠玉の孤立 / ルカ
豪奢な金の髪を肌にしとりと絡ませて、充分に水気を含んだ髪からはぽつりと水が滴り落ちる。
たくさんの木々。風の音。虫のざわめき。鳥の鳴き声。独特の匂い。まとわりつく湿気。小動物の気配。風に揺れて、枝葉が揺れる。ざわざわ。ざわざわと。
水が、空から振り、地面に落ちて、ぱしゃん、と水たまりを作っていった。
――――雨。
人目を惹きつける深紅の瞳。いっそ、攻撃的とすら思う美貌。
彼女は、それをただ見ているしか出来なかった。
が、決心して、その人物に近づき、人懐こい笑みを浮かべ、傘を差し出す。
「濡れちゃわよ――――って、もう濡れてるわね」
けれども、その声はどうやら届いていないらしい。
同じ場所にいるはずなのに、確かに彼女は此処に見えるのに。
触れようかと思い、手を伸ばせば、なにか固い壁にぶつかった。
目の前の女性と自分を隔てる壁。
ふと思ったことは、向こうから自分の姿は見えているのか、ということ。
雨に打たれる彼女の瞳はどこまでも真摯で、時折、顔が僅かに歪み、苦痛を耐えるかのように、不器用な表情を作り出していた。
さて、そんな名も知らぬ彼女に対して、自分はどんな表情をしているのか?
いったい自分が何を思ったのか、言葉に成るよりも、行動が先に。
ぽんっと、雨と自分を遮る傘を放り投げた。
軽やかに落ちていった傘と一緒に、言葉が鳴る。
「いないのは、どっちかしら?」
紅茶の髪が濡れていき、服が濡れて肌にまとわりつく。
ルカは、ゆっくりと目の前の彼女と自分を隔てる壁に触れた。
「あなたは、此処にいるの?」
それとも、私が夢を見ているだけ?
それとも、触れられないように隠れているだけ?
「私は、此処にいるの?」
私が、私の夢を見ているだけ?
私が、触れられないように隠れているだけ?
ふいに、金の髪をした彼女がこちらを向いた。
ゆっくりと手を伸ばす。
あぁ、なんて綺麗な姿。
綺麗。
綺麗なものは、とても好き。
対になるかのように、それでも互いには触れ合うことはなく、お互い壁に触れて。
それは、まるで鏡のようだった。
金の髪の下で、彼女の唇が僅かに動く。
聞こえない。
なにかを言っているのだろうに、届かない。
(あなたには、私が見える?)
紅茶の髪の下で、ルカは首を傾げ、少しだけ微笑んだ。
雨がやみ、眩しい光があたりを照らす。
その光景は、夢のようにすり抜けていった。
それはまるで、気ままに嘯くような、幕間劇のようだったね。
