香澄みて 花の匂いと とりかえばや―――香雪こうせつの巻〈二〉

 霜月(十一月)は何かと忙しい。
 五節ごせちが終わってすぐに、賀茂の臨時祭がある。
 内裏から勅使が発ち、北の賀茂神社に楽を奉納するのだが、前日とその翌日にそれぞれ奉納する舞を宮中で舞う。
 前日のそれは試楽リハーサルだが翌日はかえり立ちの儀といい、神社から帰ってきた勅使がそのままの姿で夜遅くに舞うもので、冬の夜の深沈とした冴え凍るような大気のなかを神楽かぐらの笛の音がひょうひょうと切り裂いていく。
 赤々と熾された庭燎にわびに舞人の艶打ちされたほうが鮮やかな照りと影を作りだすさまは、いっそ神懸かったようにすら見え、夢幻かなにかのように美しい。
 その還立ちの儀を今年は見ることができず、華奈は内大臣邸で歯ぎしりせんばかりだった。
 牛車を仕立てて、女房女童たちを引き連れて奉納先の賀茂まで見に行ってもよかったのだが、ああいうのは内裏で朋輩たちとわいわい騒ぎながら見るのが楽しいのだ。
 仕方がないので、風合い良く染めた絹で枝振りの良い紅葉を作らせ、還立ちの日に合わせて中宮のもとへ献上した。
「竜田川の紅葉も、この神楽舞をさぞかし見たいと思っていることでしょう―――」
 そういう言上と共に。
 竜田川は京の西にある竜田山を流れる川で、ここの山は紅葉の見事さで知られている。その竜田山にいま比売神ひめかみが竜田姫。秋を司り、木々の葉で綾錦を織りだす女神だ。
 賀茂臨時祭は紅葉が終わった頃に行われるため、竜田姫は祭を見ることができない。まして舞を捧げられる当の神でもないから、見たくても見られない。
 内裏だいりから下がっている華奈も還立ちの儀を見ることができない。華奈のために行われる舞ではないから、我が儘も言えない。
 そして、竜田川と紅葉には誰もが知っている有名な和歌がある。千早ぶる神代も聞かず何とやら、だ。
 で、千早とは誰のことかと言えば、それはもう言うまでもない。
 だから、華奈はわざわざ作り物の紅葉を献上したわけである。
(わたくしは、臨時祭の還立ちを見ることができずにとても残念に思っています―――)
 つまりはそういう遊びなのだった。
 こういうことが一瞬でわかるようでなければ内裏勤めはつとまらないし、無粋者の烙印を押されてしまう。
 自分を神に例えるなど下手をすれば不遜だと反発を買うが、華奈ほどの家柄と教養があるものがやると洒落た遊びとして受け止められる。
 兄が華奈が住まう西の対を訪れたのは、還立ちの儀も果ててからのことだった。夜明けも間近でさすがに眠いが、自分が仕掛けた遊びの結果が気になっていた華奈はすぐに兄を出迎えた。
 冬直衣のうしの白さも艶やかな兄は、手にしていた漆塗りの箱を御簾みすの向こうから差し入れた。
「東宮さまから、藤の木を司る竜田姫にとのことだ」
 華奈が藤原氏だからだろう。めちゃくちゃな竜田姫もあったものである。
「東宮さまから?」
 なぜ東宮からこのようなものをいただくのかがわからず、華奈は怪訝な顔で箱を受け取った。
「ちょうどお前の紅葉を献上しに行ったら、東宮さまもおられたんだよ。ついでに一人、お前の紅葉を挿頭かざしにして舞ったよ」
「まあ!」
 華奈は晴れがましさに目を輝かせた。
 舞人は定められた何かしらの造花を冠に挿して舞うのが慣例となっている。大抵は桜や藤、山吹などだが、それにならって紅葉を挿して舞ってもらえたなど、仕掛けた遊びが最高の形で報われたということだ。
「それで東宮さまがこれを私にくださったの?」
 言いながら箱を開け―――華奈は固まった。
 雅人が心持ち目元を光らせながら、扇を口元に当てる。御簾越しとはいえ、充分に力のある視線だった。
「舞人が挿頭としていた桜だ。紅葉の代わりにこれを。ついでにお借りしていたものもお返ししたい―――とのことなんだが?」
 いったい何をやらかした?
 その視線がそう問うている。
 華奈は扇を開いて顔を隠した。
 膝元に置かれた箱のなかには、色褪せた五色の糸が結ばれた桜の造花が一枝。
 間違いなく、あの夜のそぞろ歩きのときの代物だった。
(こう来るわけー !?)
 華奈は内心冷や汗まみれになりながら兄に弁明した。
「別に………。東宮さまには以前、端午の節句の薬玉についていた色糸をたわむれに差しあげたのよ。魔除けといって。それだけよ」
「糸だけ差しあげたのか?」
 妙な顔をした兄に華奈は扇の影で、だって糸しか持っていなかったんだものと呟いた。
 それが聞こえたのか聞こえていなかったのか、雅人は何やら思案げな顔になった。
「まあ、東宮さまとお前が親しいというのは良いことさ」
「あら、私、やっぱり入内じゅだいするの?」
 打てば響くような素早さで、華奈がとんでもないことを言った。
 雅人がついと目を細める。
「そういうことを軽々しく口に出すものじゃないぞ」
「それでは兄上様、こちらにおいであそばして」
 華奈はわざとらしい口調で、閉じた扇を使って御簾の端を持ちあげた。
 御簾をくぐってやってきた雅人は優雅な仕草で腰を下ろすと、華奈を軽く睨む。
 睨まれた華奈は再び扇を開くと、たしなみを装って兄から顔を隠した。
「だって、それ以外に予想がつかなくてよ。いまの状況からすると桐壺女御きりつぼにょうごさまが御子をお生みあそさればれてからの入内となるでしょうけど」
 そろそろ結婚しろと言われて内裏を退出したのはいいが、内大臣家にふさわしい公達きんだちはいまのところ見あたらないし、父親もどこそこの誰それはどうだなどとは言ってこない。
 ならば考えられることはただひとつ。
 華奈としても、いまの世の動きから考えてこれ以外に父が考えていないだろうと見当をつけていた。
「頭の良い総領姫を持って、内大臣家は安泰だな」
 皮肉を言い、雅人はふと檜扇ひおうぎを口元にあて値踏みするような視線を華奈に向けた。
「ところで」
「え?」
「先日、父上のところに一条大納言がいらしてな」
「一条大納言?」
 華奈は顔をしかめた。
 大納言の定員はいまのところ二名で、筆頭の大納言は「一の大納言」と呼ばれ、新任の大納言は「新大納言」と呼ばれる。一条、と宅地の場所を冠されるところからすると、筆頭ではなく新任でもない大納言なのだろうが、あいにく現在大納言の職に誰が就いているのか、華奈にはさっぱりわからなかった。
 華奈の表情を見てとって、雅人が補足する。
麗景殿れいけいでん女御さまと月姫の兄君だ」
 合点のいった華奈がぽんと扇を鳴らした。
 月姫の名は華奈の耳にも届いている。かぐや姫のように美しいだと評判で、公達から文の雨の降るほどだというが、殿方を見ただけで卒倒しかねないぐらい繊細な姫君だとか何とか。
 先の内大臣―――つまり、華奈たちの父親の前に内大臣だった人物の末姫なのだが、先内大臣はすでに亡くなっているので兄の一条大納言が面倒をみているのだろう。
 問題はこの一条大納言がどちら側の人物なのかということだった。
 現在、政局は二つに分かれている。東宮の祖父にあたる左大臣とその婿である内大臣の舅・婿(華奈たちの祖父・父)側と、東宮に添臥そいぶしを立て、東宮坊の長官である東宮大夫や教師役である東宮などの現実的な補佐役に食いこんでいる右大臣(桐耶の父親)側とにだ。
 もちろん、表向きは左右内大臣そろって東宮を盛りたてているように見えるのだが、実際は互いに東宮を取りあっている恰好になるわけだ。
 官職の頂点にある大臣が二つに分かれて足を踏んづけあっているわけだから、自然その下もどちらかに分類される。
「一条大納言はどちらなの?」
 単刀直入にずばりと尋ねた妹姫に、雅人もこれははぐらかすことなく答えた。
「どちら側でもない。麗景殿さまとその三の宮の後見だぞ。そうおおっぴらに、どちらかについたりできるわけがない」
 三の宮………?
 少し引っかかったものの、華奈はそのまま話を続けた。
「でも、うちにいらしたんでしょ? うちにつくの?」
「そのことなんだがな」
 雅人はここからが問題とばかりに、ますます目を細めて華奈を見た。
「もうすぐ三の宮が元服されるらしい。年明けにでも」
「そういえば、そんな話を内裏で聞いたような気がするわ」
「で、三の宮は三品さんぽんの位をお持ちの親王だ。親王が元服なさるときには、当然添臥そいぶしが立つわけなんだが」
「まあ、それはそうじゃないの? 東宮さまにだって紫乃しの姫が立ったんだから。私はまだ年若だからダメだってんで、競り負けた父さまはあのときえらい悔しがってたけど」
 そう。華奈はその当時から東宮のきさいがねと目されてはいたのだ。添臥に立てなかったことと、華奈本人が内裏住みなどやらかしたせいですっかり世間は忘れ去っているが、祖父の左大臣、父の内大臣などは忘れていない。
 何で三の宮の元服の話になっているのかと首を傾げている華奈に、雅人はさらりとこう言った。
「お前の言う通り、たいがい添臥は年上の姫を選ぶな。それで、一条大納言は三の宮の添臥にその年上のお前をぜひに、と言ってきたんだが」
「……………………は?」
 華奈は、自分の耳がおかしくなったのかと思った。
 行儀が悪いのを承知の上で髪を耳にはさみ、よく声を聞き取れるようにしたうえで、あらためて兄を見る。
「もう一度言ってもらえるかしら、兄さん。私が何ですって?」
「年明けに元服する三の宮の添臥にお前をと言ってきたんだ、大納言は」
 どうやら聞き間違いではないらしい。
 明晰を誇る華奈の思考が、このときばかりは鈍かった。
 しばらく沈黙が落ちる。
 添臥。帝や東宮、親王の元服の夜に貴族の姫が添い寝をつとめる習わしで、添臥をつとめた姫君とは、そのまま結婚の運びになることが―――。
 炭櫃すびつの炭がパチリと弾けた。
「私が添臥ッ !?」
「ほう、驚くか」
「当たり前でしょ! 何で藪から棒に添臥なんて話がでてくるのよ !?」
「心当たりはないと?」
「当たりま―――」
 怒鳴りかけた華奈の視線が、膝元に置かれた漆塗りの箱の中味に吸い寄せられる。
 色褪せた五色の糸が結ばれた桜が一枝。
 あのときは桜ではなく呉竹だったわけだが。
(仕方ありません。恐がりの雪宮すすぎのみやさまのために魔除けを差し上げましょう―――)
 宿下がりの直前とあって気が大きくなっていたとはいえ、顔も見せ、声も聞かせた。几帳きちょうも御簾も隔てていない。
 さーっと華奈の顔色が青くなった。
「で、心当たりは?」
 涼しい顔で雅人が再び尋ねた。
 いったい何をやらかした?
 その視線が重ねてそう問うている。
 華奈は兄を見つめたまま扇を徐々に持ちあげていくと、やがて完全に顔を隠した。さらに上から袖で覆う。
 袖几帳に加えて扇の衝立と二重に兄の視線をさえぎったところで、普段からは考えられないほど慎ましやかな声で華奈は言った。
「このようなあまりに急なお申し出、かそけき我が身にはとてもうつつのこととも思えず、今はただ泡沫のごときこの世の性急さと儚さを思いやるばかりでございます。何やら胸のうちさえも苦しくなってまいりました。どうかご容赦あそばして」
 このような知らせを受けた深窓の姫君がとる反応としては非の打ち所のないふるまいだが、実際は聞くな触れるな突っこむなと周囲に垣を巡らせること、物忌み札よりすさまじい。
 心当たりがあると言っているも同然の妹姫を―――正確には几帳にされている小袿こうちぎの袖の文様を眺めていた兄は、やがて追求をあきらめたのか半開きだった扇を閉じた。
「まあ、その猫っぷりだと入内してからもだいじょうぶだな」
「………添臥は?」
「お前、何を言っているんだ」
 呆れた口調で雅人は言った。
「そんな寝言のような申し出を父上が承知するわけないだろう。だいたいお前が三の宮の添臥に立とうものなら、今上がご譲位の際に、うちを後見にして三の宮を次の東宮になどと仰りかねない。そんなことになったら今度はお祖父さまと右大臣が結託してうちの父上と対立するぞ」
 兄に言われるまでもない。そのくらいのことは華奈にもわかる。女の華奈にわかるというあたりは少々型破りだが、政治を動かす男ならそのあたりまでは誰でも推察できることだ。
 つまり、一条大納言にもわからないはずはないのである。
「………一条大納言は頭の悪いお方なの?」
「いや、至って普通の方じゃないか? まあ、少々お気の弱いところはありそうだが、今時分に三の宮を元服させることに頭を抱えているぐらいだから、世の動きが読めない方でもないだろう」
 扇をもてあそびながら事も無げに雅人は答え、ますます以て華奈は眉をひそめた。
「雪宮さまは年明けに初冠ういこうぶりの儀?」
「そういう話だが?」
 いまは霜月半ばである。年が明けるまであとひと月と少し。こんな時期に添臥の依頼に来るなどおかしい。あり得ない。物事には準備というものが必要なのだ。
「もしかして、最初から断られることを見越してうちに来たの?」
「まあ、儀式のひと月前にやって来て添臥の承諾をもらえると思うほうがどうかしているな。ご無理を承知でそこのところ何とかならないか、日取りを遅らせてもかまわない、ダメならダメとはっきり仰っていただきたい―――と、まあこんな感じだったらしい」
「で、ダメだとはっきり父さまは仰ったわけね」
「当たり前だ。ごく内々の話だからな」
「それくらいわかってます」
 華奈は唇を尖らせて兄を見た。こんな話が風聞になっただけでとんでもないことになってしまう。このご時世、噂になったが最後、それは事実と同じだけの重みを持つ。
「何だか、あたって砕けに来た感じね」
「まさしくそうだな。お前を添臥になんて、普通は考えついても実行に移さない。で、何が一条大納言をそうさせたかというのが問題なんだが」
 さっと華奈がまた顔を隠す。
 見事な素早さだったが、今度は雅人も容赦なく続けた。
「ひとつ、麗景殿さまが血迷われて大納言に相談した。ふたつ、三の宮がお前に懸想して大納言に相談した。みっつ、三の宮がお前に懸想していることに気づいた麗景殿さまが子を思う闇ゆえに大納言に相談した。さあ、どれだと思う?」
「みっつめ………」
 げっそりしながら華奈は答えた。
 麗景殿から頼まれてしまったので、とりあえず形だけはうかがいに来たというところか。
 兄から聞いたこの一連の話からすると、雪宮が自分に好意を寄せてくれているのは間違いないのだろう。嬉しくはあるが、自分が迂闊なことをしてしまったせいであることは間違いない。
 しかし、だからといって添臥に自分を立ててくれと我が儘を言いだすような皇子には見えなかった。むしろ人の思惑を敏感に読んで、周囲に気を遣う人柄のように思えた。そして逆に自分のことには手がまわらない。
 周囲の空気を読んで自分と周囲どちらも損のないように動き、他人にも気を遣うが自分のことにも手がまわる東宮とはえらい違いだ。もしかすると東宮も幼い頃はこうだったのかもしれないが。
 何ともいじらしくて可愛い性分で、思わずほのぼのとしてくる。
 可愛いなあ、嬉しいなあとは思ったものの、それ以上には発展しそうにない。困った。
雪宮すすぎのみやさまには俺もお会いしたことがある」
 初めて侑仁ゆきひと親王のことを愛称で呼ぶと、雅人は表情をやわらげて苦笑した。
「賢しくて周りの者に気を遣わせまいとする、お優しいご気性だ。毒にも薬にもならないし、健やかに育たれることを願うが、お前のせいでいらん物思いをなさるとは可哀想に」
 身も蓋もない評価だったが、兄の他人への好意の持ち方が大抵こうだと知る華奈は特に何も言わなかった。
 自分の前に立たない限りは、あるいは毒にも薬にもならないうちはその幸せを願うという、ある意味非常に間違った好意だった。
 行く先に立てば敵であるし、毒になれば排除する。薬になったら親しくするが、それには損得がつきまとうから好意とするのは失礼だと思うらしい。礼儀正しいのかどうか判断に困るところだ。
 華奈は扇を下ろすと溜息混じりに言った。
「私じゃなくても、もっと可愛らしいお似合いの姫がそのうち見つかるわよ」
「まったくだ。お前の本性を知ったら百年ももとせの恋も一気に冷める」
「お兄さまの本性を知ったら、優秀な少将だと思ってる内裏の方々も青ざめるわよ」
 負けじと言い返した妹姫に、雅人は何を思いだしたか喉の奥で笑った。
「ちゃんと本性を見抜いて敬遠しているやつもいるぞ」
「え? それって―――」
 華奈が問いただす前に雅人は御簾の外に滑り出ていた。用事は済んだということだろう。一条大納言の非常識な申し出に対する華奈の反応を見に来たのと、釘を刺しにきたというところか。相変わらず怜悧な兄で頭が下がる。
 硬質な衣鳴りの音とともに立ちあがった雅人は御簾越しに華奈に辞去を告げようとして、ふと背後の格子をふり向いた。
「兄さん?」
「しずかだな」
 独り言のように呟いて、二枚格子の上の部分に手をかける。
 そこで華奈も気づいた。夜更けとはいえ、吸い取られたように一切の音がしない。
 まるで柔らかな真綿で邸全体が覆われてしまっているような静けさだった。
 雅人の手が格子を上げた途端、冷気がひさしの間に滑りこんできた。
「まあ………」
 膝で立ちあがって御簾を持ちあげた華奈は、格子の隙間から見える景色に驚きの声をあげた。
 風もないなか、静かに白いものが降っている。闇のなかで輝くようにただ白く。
 何もかも白く覆われた庭を目にして、雅人が目を細めた。
「初雪だな」
「今年もあとひと月で終わりね」
 立ちあがり、衣擦れの音とともに隣りにやってきた華奈に雅人はかすかに眉を動かしたが、何も言わなかった。
 もの寂しい師走を終えれば、やってくる睦月は目の廻るような忙しさだ。
 皆がまたひとつ、年をとる。

〈適当な用語解説〉(あくまで雰囲気をつかむためのものです)

賀茂の臨時祭……かものりんじさい。11月下旬の酉の日に行われるお祭。4月に賀茂祭があるのに対してこちらは臨時というわけですが、別に単発というわけではなく、毎年恒例です。臨時に始まったから臨時祭(笑)。

千早ぶる神代も聞かず……「千早ぶる 神代もきかず 竜田川 からくれないに 水くくるとは」(在原業平)。百人一首にも入ってますね。

冬直衣……ふゆのうし。落葉の巻〈4〉の二藍の解説でも触れてますが、直衣は夏は二藍。冬は白とおおまかに決まっていました。

挿頭……かざし。行事のときなどに冠の巾子 (こじ) にさす花飾り。源氏物語の「紅葉賀」では光源氏が紅葉や菊を挿してます。

東宮傅……とうぐうふ。東宮大夫は落葉の巻〈5〉に解説があります。こちらは東宮専属の師匠。学問と言うよりはどちらかというと総合的な師というか……。「道徳を以て皇太子を輔導することを掌る」とありますので。たいてい三公(太政大臣、左右大臣)が兼任しました。つまりここでは桐耶のパパの右大臣が東宮傅です。

炭櫃……すびつ。大型の火鉢。個人的に丸いのが火桶で、四角いのが炭櫃だと勝手に思ってます。

二枚格子……にまいごうし。格子自体については黒方の巻〈1〉と〈6〉に解説があります。邸の南面が一枚格子。東西が上下に分かれた二枚格子でした。華奈の部屋は東向きか西向き、どちらかのようです。