第二章 城塞都市の昼 〈出逢い〉
「ジャドは我々獣人兵団が占領した。おとなしくしていれば、危害は加えない」
桟橋から石造りの通路を抜けてきたリースを出迎えたのは、くぐもった低い、獰猛な声だった。面と向かって言われた事情が把握できず、リースは呆然と立ちつくす。
「な、なんなんですか……?」
ローラントの城下町である漁港パロから定期船に乗って、ジャドの街にたどりついた直後のことだった。
定期船の船員を何人かつかまえて事情を訊こうとするが、みな周囲をはばかって答えようとしない。数人目にして、桟橋と街を結ぶ通路の入り口にたたずんでいた船員がようやく小声で応えを返してくれた。
「嬢ちゃんは獣人って知ってるか?」
リースは首を横にふった。
「ここから南々西のところにある〈月夜の森〉ってところに住んでる人型の獣だ。まあ、南々西と言ってもすげぇ離れたところにあるらしいんだが、なぜかわざわざ他人様まで襲ってきやがる」
ちらりとやった視線の先には、我が物顔で歩きまわる獣人たちの姿がある。
「どうやら聖都ウェンデルが目標らしい。おかげで船は嬢ちゃんが乗ってきたのでお終いだよ。港も封鎖されちまう」
「封鎖………?」
リースはそれを聞いて呆然となった。
潮風が、白金の髪を巻きあげてゆく。
ローラントといい、次に来たジャドといい、どうも尋常でない騒ぎに巻きこまれているような気がした。
あれから、夜明け頃にローラントの城下町にあたる漁港パロにたどり着いたリースは、そのままその足でジャドとの定期船に乗った。ローラントから外に出る手段は、今のところこの定期船か嶮しい南の山脈越えしかない。
たどり着いたパロは以前訪れたときと変わらぬ様子だったが、ローラント城が落ちたということは、遅かれ早かれこのパロにもナバール兵はやって来る。パロにいるのは危険だとリースは判断した。
城で離ればなれになったホークアイもそう考えるはずだ。
そう思い、リースは定期船に乗りこんだ。ローラントと結ばれている海路は今のところ、このジャドとバイゼルの街しかない。
ジャドとバイゼル、そしてローラントは陸続きではあるのだが、ローラントの国土より広いこの大陸の水源アストリア湖と、それに隣接してそびえて立つ行き来できた者がいないことで有名なウィンディスの断崖が、ローラントを陸の孤島と成していた。
今聞いたとおり港が封鎖されるのだとしたら、ホークアイがジャドにやって来ることは無理だ。ここで彼と落ち合うこともできないし、リースがここからどこかに行くこともできない。
(どうしよう……)
ホークアイの銀紫色の髪をリースは思い出した。どうにかして無事でいることを願う。
私を助けてくれた人なのに。
ぎゅっと布を被せたヴァナディースを握りしめたとき、不意に一人の獣人兵と目があった。
浅黒い肌に縦に光彩の入った金色の瞳。犬歯の発達した野性味を漂わせる風貌は、人間の範疇であるとも、そうでないともいえた。人型の獣だと、先ほどの船員は言った。獣が人になるのか。人が獣になるのか―――。
「何だ、その反抗的な目つきは !?」
気が立っているのか、優位を確信しているのか、悪し様に獣人兵は難癖をつけてきた。
思わずリースはヴァナディースを包んでいた布を取りそうになってしまったが、衆人環視のなか、ひとり争っても到底勝ち目はない。
「………いいえ、なんでもありません」
つとめて穏やかに言った言葉に、獣人兵は笑って頷いた。
「そう、それでいいんだ」
「…………」
リースはそのまま獣人兵から遠ざかり、こんな状況下でも一応運営しているらしい酒場兼食堂の扉をくぐった。昨日から何も口にしていないことに遅ればせながら気づいたのだが、緊張の連続で胃は何も受けつけそうになかった。
酒場は当然のごとく活気がなかった。閑散とした空気が漂い、リースを除いては隅の円卓で怯えるようにして周囲をうかがっている少年が一人いるだけだ。
卓が二つに酒場の主人がいるカウンター。あとは二階へと続く階段。典型的な酒場の例に洩れず、二階では宿を営業しているようだった。
リースは城にいたとき、よくパロまで遊びに来くることがあった。もともとローラントは王族と民の垣根が低い気風ということもあるが、城だけで生活がなりたつわけはないので、生活用品や武器防具の買い付けなどでも頻繁に下山していたのだ。まさかこんなところで財布を持つ習慣が役に立とうとは思いもしなかったが。
品書きを見てもどれも口にする気が起きなかったが、とりあえず菜托と飲み物を主人に頼んで、ひとつだけ空いていた卓に着く。残りの卓では少年が食事をしている。
ヴァナディースを傍に立てかけ、リースは肺が空になるような大きな溜め息をついて卓に突っ伏した。
わけがわからなくなりそうだった。
どうして自分がローラントの城ではなく、こんなところにいるのかが、まだよくわかってない。
リースはローラントの地理を頭に思い浮かべた。
北と東は海。西はアストリアの大湖と断崖。南は〈灼熱の砂漠〉に出るまで延々と、バストゥーク山を含めたローラント山脈の分峰である峻峰リズラントが連なっている。
難攻不落と言うのは攻めるのが難しいと言うことだが、陸の孤島なのだから攻めにくいのは当たり前なのだ。
残るは空からなのだが、バストゥーク山の中腹にあるローラント城まで飛べる攻城兵器があるのならぜひ見たいものだった。
もっとも、もう難攻不落ではないのだが………。
このまま死んでしまいたいような暗い感情がリースのうちにある。
ここまで来る船のなかでリースは、ジャドで船を乗り継いで砂漠の都サルタンに行こうと考えていた。〈灼熱の砂漠〉の端に位置する都サルタン。ナバール盗賊団の本拠地も砂漠のどこかにあるはずだった。〈転移〉を付与されたあの侵入者二人の行き先として考えられるのはそこだった。ならば弟もそこにいるかもしれない………。
それなのに、いまここにいる自分はどこにも行けない。
突っ伏したままきつく目を閉じたとき、扉が軋んだ音を立てて客が来たことをリースに知らせた。
のろのろと顔をあげて、リースはわずかに目を見張った。
およそローラントではお目にかかることのないような、透き通るような白い肌の美人だった。歳はリースよりも幾つか上だろうか。紫色の柔らかなくせっ毛を無造作に背中に流し、魔法を使うのか、手には杖を持っていた。
彼女は店内の埋まっている卓を見回して顔をしかめた後、リースの方へとやってきた。
「一緒してもいい? カウンター嫌いなの」
黙ってリースは頷いた。ちょうど頼んだ料理を主人が持ってきたところで、ついでに彼女の注文をとって戻っていく。
物怖じすることなく彼女はリースに笑いかけた。
「美味しそうね、この菜托。ちょっともらっていい?」
やはり黙ってリースは頷いた。
白い指先が皿のなかの魚の切り身をつまむ。
「あたし、アンジェラっていうの。夜中に定期船でこっち来てさ、来たらもうこうなってて、さんざんよ」
美しい顔が子どもっぽくしかめられた。
「ウェンデルに行かなきゃいけないのにさ、すっごい迷惑」
雪のような純白の肌と紫の髪の対比が鮮やかだった。身にまとっている衣服はリースの感覚からすると、ちょっとどうかと思うぐらい肌の露出が多かったが、それが非常によく似合っている。仕草のひとつひとつにどことなく気品があり、見栄えがよくて洗練されていた。
そこまで観察したあとで、リースはまだ自分が名乗っていないことに気がつき、きまりが悪くなった。
「私はリースと言います。朝、定期船でこちらへ来たんです。でも私が乗ってきた船を最後に港は封鎖されてしまって………」
「お互い災難よね」
アンジェラと名乗った女性は小さく肩をすくめた。
少し気持ちがほぐれ、リースも小さく笑った。
微かに笑ったリースの様子を見て、アンジェラは好感を持った。
この店に入ったときすぐに、白金色の髪が目についた。ひどく疲れたような顔をしていたが、それでも充分に整った顔だちだった。自分よりも年下に見える少女が革鎧をまとい槍を傍らに置いていることに興味を覚え、思わず声をかけたのだ。
口を利いてみるとずいぶん大人びてしっかりしている。そして何より、物腰に自分と共通した何かを感じた。
アンジェラとリースのあいだに沈黙が降りて、不思議そうな視線が互いにからみあった。
「あの………」
二人が口を開いたのは同時だった。
「あ………どうぞ」
「ううん、そっちからどうぞ」
譲り合ったあげく、二人して再び沈黙してしまったときだった。アンジェラの料理が運ばれ、主人がカウンターのなかに戻っていったまさにそのとき――――。
外で何やら騒ぐ声が聞こえた。悲鳴と罵声がだんだんこっちに近づいてくる
酒場の扉がばたんと音を起てて大きく開かれると、腰に剣を下げた青年が転がりこんできた。
突然のことに場の全員の思考が停止したその隙に、青年はカウンターの内側へ駆けこむ。
青年の姿が完全に隠れた次の瞬間、さっきよりも荒々しい音と共に酒場に二人の獣人兵が踏みこんできた。
「いまここに男が来なかったか !?」
だれも獣人兵と目を合わそうとはしなかった。
重苦しい沈黙が流れ、焦れた獣人兵が再び怒鳴りかけたときだった。
「―――そいつなら、その窓から出ていったわよ」
風を通すために開け放されている左側の窓を指差して、アンジェラが面倒くさそうにそう言った。
「本当だろうな、女。庇うとためにならんぞ」
独特の光彩をした目を細め、獣人兵がアンジェラとリースを見る。
「本当だ」
不意にあがったその声は、もうひとつの卓の少年のものだった。
そちらを見たもう一人の獣人兵が微妙に表情を変え、リースたちに詰め寄っていた獣人兵の脇腹を肘でつついた。
「あっち、行った。早く、追えばいい」
少年の言葉に、二人の獣人兵は窓の外を覗きこむとひとつ頷いて外に出ていった。
出ていく間際に言い捨てる。
「騒がせたな」
完全にその足音が遠ざかってから、その場の全員から大きな溜め息が洩れた。
「悪ぃな、助かった」
全然悪びれない声と共に、カウンターの奥から問題の青年が立ちあがった。
アンジェラの形のいい眉が勢いよくはねあがる。
「そう思うんならさっさとどっか行ってくれる? ここにいつ戻ってくるかわかったもんじゃないわ」
「そんときはそんときだな。オヤジ、飯を頼む」
ひょいと肩をすくめると、青年は料理を注文してこともあろうにリースとアンジェラの卓に座った。
「何でここに来るのよ! さっさとどっか行ってってば!」
「いま出てっても捕まるだけさ」
「じゃ、何でここ来るの。カウンターにでも行ってよ」
「ここが一番窓に近い。逃げるのにちょうどいい」
人を食った態度に、アンジェラが卓を叩いて立ちあがった。雪白の頬が紅潮している。
「なら、あたしたちが場所を移るわ。ごゆっくりどうぞ! ―――リース、行きましょう」
青年が隣りに座ったせいで落ち着かない気分を味わっていたリースは、素直に頷いて立ちあがった。
「なんだって、そこまで邪険に扱われなくちゃいけねぇんだよ」
さすがに気分を害した青年がムッとした表情で、引き留めようとリースの手首をつかんだ。
リースの顔色が赤から青に急変した。
手甲越しとはいえ、断りもなく異性に手をつかまれたことなどない。
とっさにつかまれていないほうの手で青年の頬を張ると、無意識のうちに言葉が唇から滑り出ていた。
「―――無礼な!」
叫んだ後で、取り返しのつかない失態に気づく。
柳眉を逆立てていたアンジェラに、打擲されて呆然としている青年。向こうの円卓の少年に、カウンターで黙々と硝子杯を磨いていた酒場の主人。その場にいた全員の視線が、一斉にリースに集中した。
「あ………」
だれよりも狼狽したのはリース自身だった。
出自がばれてしまう―――。
ここ二日間の出来事が一気に溢れ出して、脳裏でぐるぐると渦をまいた。血の匂い。焦げた匂い。死臭。風の唸り。ホークアイの髪の色。怒り。不安。嫌悪感。
死。そして生。孤独。
どうして自分はここにいるのだろう。
張りつめていた緊張と自制の糸が、ぷつんと音をたてて切れた。
声もなく、リースの双眸から涙が溢れだした。
それを見たアンジェラがきつく唇を引き結んだ。呆気にとられている青年の頭を、容赦なく杖で殴り倒す。
酒場の主人が磨いていた硝子杯に視線を戻した。不干渉に徹することにしたようだ。少年だけが、ものめずらしそうにまだこちらを見ている。
アンジェラの手がリースの手首をつかんだ。今度はリースも厭ではなかった。
「親父さん。二階って借りられるの?」
「金さえ払ってくれればな」
「わかったわ。じゃあよろしく」
銀貨を一枚カウンターに滑らせると、アンジェラはリースの手を引っ張って二階へと上がった。
連れてこられた二階の部屋でしばらく泣いた。
ここまで自分の感情に自制がきかなくなったことは初めてで、泣いたことよりむしろそのことに呆然としていたが、そのことでようやく、自分は泣きたかったことに気がついた。
やがてリースの涙が止まる頃、アンジェラが不安げな声で尋ねた。
「落ち着いた?」
アンジェラの問いに黙ってリースが頷くと、彼女は苦笑混じりの吐息を吐き出した。
「リースの本名は………?」
「リース=エリ=ディ=キリア………ローラント」
ローラント。
そう口に出したあとで、リースは唇を噛んで俯いた。
もう自分の帰る場所ではなくなった故郷。
「ローラント………、東の風の王国ね。やっぱり王族だったか」
リースの本名を尋ねたあたりから、その声は囁くような小声に変わっていた。
うつむいているリースを、困った顔でアンジェラはなだめた。
「もう、泣くのやめてくんない? こっちが困っちゃうし。とりあえずあの無礼者は張り倒しといたからさあ」
「………そうですね。すみません」
最後の言葉に微かに笑って、リースは涙を拭った。
「アンジェラさんのお名前も、教えてくれますか」
「いいわよ。私はアンジェラ。アンジェラ=フェル=ヴィン=テルダ=アルテナ」
リースは一瞬、自分の耳を疑った。
「―――アルテナ !?」
「ちょっ、シーッ! そんな大声ださないでっ」
思わず跳ねあがった声の調子に、アンジェラが慌ててリースの口をふさぐ。
「アルテナって……!」
北の北。ジャドからは北西の方角にある北の果ての王国だ。
またの名を、魔法王国。
魔物しか棲めないはずの極寒の地に強大な王国が存在するのも、皆ひとえに魔法の恩恵ゆえ。
現在、アルテナを治めているのは〈理の女王〉の異名を持つヴァルダ。アルテナの王もしくは女王は、強力な魔力を代々受け継ぎ、魔法の力によって国を寒さから護っている。また、城を護る兵たちも皆、魔法に習熟しているという。
魔法王国たる由縁である。
アンジェラは、そのアルテナの王女だということになる。
なぜ、そのアンジェラがこんなところにいるのだろう。ここはアルテナからあまりにも遠すぎる。かの王国は一年の半分を流氷に閉ざされ、他国との交流も少ないと聞いている。
「なぜアンジェラさんは―――」
言いかけた、リースの表情が凍りついた。アンジェラが怪訝な顔をする。
リースの反応は早かった。左手が槍を包む布を一瞬で取り去り、床を蹴ると、一気にその槍を扉へと突き立てる。
薄い扉は難なくヴァナディースの穂先を通した。
「うわ……!」
扉の向こうから慌てた声がする。
リースが槍を引き抜くと、間髪入れずに扉が開いた。
「いきなりそういうことするか !? 短気だなローラントのお姫様はッ!」
「………最初から聴いていたんですね」
青ざめた顔でリースは、先ほど頬をはたいた青年にヴァナディースを突きつけた。
突然の事態に声を無くしていたアンジェラが、リースの前に飛びだすと杖を横薙ぎに払った。さすがにそれはまずいんじゃないだろうかと思わないでもなかったが、止めるひまはない。
が、あっさりとそれを受け止め、青年は腰から剣を外す。
「何だよ、こっちのお姫様も短気だな。謝りに来たのにこのザマかよ。一応、身分をたてておくから、攻撃するのはやめてくれ。オレはデュラン。身分の証明はこれだ」
リースの目の前に剣の柄が差し出された。そこにあしらわれた盾の紋章が記憶に引っかかる。
「なによこれ、変なの。これのどこが身分をたてておくわけえぇ?」
全く見覚えがないらしいアンジェラが不満げに紋章を指で撫でると、憤慨した顔でデュランが怒鳴った。
「てめえ本当に王女か? なんでフォルセナの紋章を知らねぇんだよッ」
「失礼ねええっ、あんたこそホントにフォルセナの人間なわけっ !?」
怒鳴りあいに発展しかけた二人のあいだに、静かなリースの声が割って入った。
「盾の中に表される剣は、かつて世界を危機に陥れた竜帝を討伐したという英雄王の象徴………。フォルセナの騎士というわけですか。だからと言って盗み聞きが許されるとは思いませんね」
淡々としたリースの言葉に、アンジェラが呻いた。どうやらデュランの言うことを頭から信じていなかったらしい。
たいして悪びれもせずにデュランは謝った。
「だからオレが悪かったよ。謝りに来て、入る時機をはかってるうちに聞いちまったんだ。とりあえず王家に仕える人間としてあんたたちの身分は他言しないから許してくれよ」
フォルセナは、ここジャドや先ほどアンジェラの口からでたウェンデルとは〈月夜の森〉をはさんで西に位置する王国だった。
肥沃な草原地帯を国土とする豊かな王国で、国王のリチャード王は十二年ほど前、世界を危機にさらしたという竜帝を一人の騎士とともに討ち取っており、英雄王と讃えられている。
付け加えるなら、魔法王国アルテナのある大陸のちょうど真南にあたり、アルテナとは位置的に隣同士だった。
「フォルセナの騎士ってガラ? あんたがぁ」
アンジェラの言葉に、デュランが顔をしかめた。
「いちいち気に障る女だな。騎士じゃねぇ、傭兵だ。にしたって、アルテナの王女さまが何でこんなところにいるんだよ」
「そっちこそ君主を護らないでどこほっつき歩いてんのよ」
「うるさいな。ちゃんとオレはお許しをいただいてきている。あんたたちの方こそどうなんだよ」
デュランに言われたアンジェラが顔を歪めた。リースの瞳が暗く陰る。
その様子に、逆にデュランの方が慌てたようだった。
「お、おい………?」
「………魔法が使えなくちゃなんなかったのよ」
ぽつりと言われた言葉の真意を、リースとデュランははかりかねた。
「アルテナじゃ、あたしは指名手配されてるの。だから逃げてきたのよ」
絶句した二人に、彼女は杖をきつく握りしめた。
「魔法が使えていれば、お母さまから手配をかけられることなんてなかったの………」
アンジェラは泣きそうな声で呟いた。