破烈の人形 (ファイア・ドール) 〔10〕

 それから三日後。
 気持ちよく晴れた街道を一組の男女と、子供が歩いていた。
「で、だ」
 白いフードに白いマント。けっこうどころでなく、かなり怪しげな格好の魔剣士ゼルガディスが目の前の女児を指差して半眼で睨んだ。
「何だってこいつがついてくるんだ?」
 ディスティを役人に突きだした後、アメリアは簡単な取り調べを受けて幾ばくかの礼金をもらって解放された。ゼルガディスが公の場に出向くのはマズイので、アメリア一人の手柄となったのだ。
 ディスティに関しては、あれだけ人を殺したのだから極刑はまぬがれないだろう。
 ユズハのことは黙っておいた。
 正直に話せば魔道士協会で研究用に引き取られることは明白だからだ。
 何となく他人事とも思えなかったゼルガディスとアメリアは、ユズハを庇った。
 ゼルガディスの今更ながらの言葉に、アメリアが首を傾げる。
 その左耳で、無事だった耳飾りが光を弾いた。
「しかたないじゃないですか。まさか置いていくわけにもいかないですし」
「しかたナイ」
 ユズハが繰り返して、ンベッとゼルガディスに舌を出す。
「こンのやろっ」
 ゼルガディスが思わず声を上げると、ユズハがきゃらきゃら笑って前の方へと走って逃げていった。
 それを憤然と睨んで、ゼルガディスは呟いた。
「で、やっぱり」
 ユズハがローブの裾を踏んだ。
「うきゃッ」
「すっ転ぶんだよな」
 地面と激突する寸前に、ゼルガディスはユズハの体をすくい上げてやる。
「バーカ」
 猫みたいに襟首をつかんで目の前まで持ってきて、ゼルガディスはここぞとばかりに言ってやる。
 ユズハがジタバタもがく。
「ぜる」
「何だ?」
「へーん」
「安心しろお前も変だ」
 ユズハも、その尖った耳を隠すためにクリーム色のフードをかぶっているので、実際二人とも似たような格好だった。
「意地悪ぅぅぅ」
「何とでも言え」
「意地悪ぅぅぅ、人でなしぃぃぃ、バカぁぁぁ」
 ゼルガディスは涼しい顔でそれらの文句を聞き流す。
「何とでも言ってろ」
「じゃ、フジツボ」
「〜〜〜どこで覚えたンな単語ッ !?」
 ゼルガディスに睨まれて、アメリアはぶんぶんと必死の形相で首をふった。
「わたし違いますよっ」
「他に誰がいるんだッ」
「でもホントに違いますう !!」
 問答を繰り返すゼルガディスの腕の中で、ユズハはなおも繰り返している。
「フジツボ、フジツボ」
「…………」
 ゼルガディスは問答無用で思いっきり腕を振った。
 ユズハが弧を描いて青い空に向かって飛んでいく。

 今日も、いい天気だった。