子どもたちは眠れない 〔8〕

〈Side:リア〉

「というわけでっ、敵襲よっ !!」
 扉をブチ開けて入ってくるなりの一撃に、見張りの男は声を出すヒマもなく床にぶっ倒れた。
 物音を聞きつけて、廊下の向こうの部屋や階段のところから続々と人が顔を出す。
 うーん。どいつもこいつも人相が悪い。おおまかに分けると力任せ系か、いかにも脅迫とかを考えつきそうな小細工系というところだろうか。
「なんだお前たちは !?」
「衛兵よっ」
「嘘をつけっ。ガキと小娘の衛兵などいてたまるかっ」
「冗談と嘘の区別くらいつけてほしいわね!」
 言い返したあたしの後ろで、起きあがろうとする見張りの背中にユズハが、んしょっ、と腰掛けた。ぎゅえッ、と見張りが不可解な呻き声をあげる。
 そう、ユズハが一緒にいるのだ。これであたしとユズハの取り合わせが衛兵に見える人がいたら、視力ではなく常識の方を真剣に疑ったほうがいい。
「あっ、お前は!」
 そう叫んだほうを、あたしはふり向いた。
 どうやら、あたしとユレイアの尾行を担当したやつらしい。
 電光石火。
 あたしが何かする前に、ユズハの炎がそいつの腕を焼いた。
 力の加減、という言葉を勉強中のユズハの代わりに、あたしはそいつの腕にアクアクリエイトをかけてやった。あたしが消さなかったら、ヤケドどころでなく炭化して真っ黒になっただろう。
「あたしを知ってるんなら、だいたいの事情はわかるでしょ?」
 あたしはそいつに向かって言ってやった。
「あたしの妹分を、返してもらいに来たわよ。おとなしく返せば、いまなら意識不明で赦してあげる」
 ユズハとあたしのペア。
 母さんが予想しているのかどうかは謎だが、あたしがいままで頭のなかであれこれ考えたペアのなかで、最も容赦とか加減とかいう単語が欠けているのが、実はこの組み合わせなのである。
 あたしは、鞘から剣を抜きはなった。
 アメリアさんとゼルガディスさんが旅の餞別として贈ってくれた業物だけど、特にこれといった特徴はない、ごく普通のブロードソード。

 ―――これが、あたしの得物。

 リナ=インバースの娘と聞くと、たいていの人はあたしのことを魔道士だと思いこむ。
 それは大きな勘違いだ。
 どちらかと言うと、あたしはゼルさんに近い。
 いわゆる魔法剣士なのである。
 さらに言うなら、魔法よりも剣のほうにウェイトを置いている。
 あたしの適性は、剣よりも魔道のほうにあるらしいけど、母さんはあたしのしたいようにさせてくれるし、とくに文句も言ってこない。
 それにこっち(剣)のほうだって、才能こそティルトには劣るけれど、何たって教師陣が一流以上だ。
「ユズハ、こっち!」
 あたしは剣の腹を使って、進行方向にいる邪魔なやつらに当て身を食らわせると、一気に階段を駆け昇った。
 剣をふるえる空間を確保しなければならない。
 あたしは踊り場までくると、勢いよく後ろをふり返った。
 場所柄から言ってもこの建物は高級住宅のひとつだから、階段も広くて、途中の踊り場は楽に運動ができる空間がある。
「上から来るのはまかせたからねっ」
 あたしはユズハにそう言って、慌てて付け足した。
「いいっ? 適当にそーっと燃やしなさい。ケシズミにしちゃダメよ! ましてや建物燃やすのは絶対ダメだからね!」
「ン。努力すル」

 ………はなはだ不安。

 まあ、何とかなるだろう。
 あたしは気を取り直して、階段を駆け上がってくる、ごろつきその一に呪文を解き放った。
「バースト・ロンド!」
 呪文の威力よりも、見た目に驚いて、そいつは階段を踏み外して転げ落ちていった。
 なるたけ派手に立ち回って、敵の注意をこっちに引きつけないといけない。
 今のうちに、ティルトとユレイアが三階の窓から直接、ラウェルナさんの子どもだと思われる男の子を助け出しているはずだ。
 助け出したらティルトがそこから別行動。アセリアのところに向かう。レイ・ウイングを使えるユレイアは男の子と一緒にあたしの家へ。
 あたしとユズハは敵を引きつけつつ階上を目指して、ティルトと合流。アセリアと一緒なら先に逃がすし、まだならそこはユズハと一緒に力押しである。
 うーん。我ながらおおざっぱなのか細心なのかわからない計画だこと。
 もうひとつ大事なことがある。
「あーっ、もう下手くそ相手になんないッ。時間がないからちょうどいいけど!」
 あたしは叫びながら、ごろつきその二の剣をその手から弾き飛ばした。
 もうひとつの大事なことはといえば。
 衛兵が駆けつけて来る前に、逃げ出さないとね―――



 窓から火炎球が飛びこんできたのは、それからしばらくたってからのことだった。
 それは、あたしが決めた合図だった。放ったのはユレイア。
 いささか乱暴な合図だが、こっちには火のエキスパートがいる。
「ユズハ消して!」
 叫んだあたしに応えて、ユズハが火球を凝視する。
 フッと火球が拡散して消えた。
 これで男の子の方は救出完了。あとはアセリアだけだ。
「ユズハ、上に行くわよ! アセリア助け出すわ!」
 ユズハの返事を待たずにあたしは階段を駆け上がった。あちこちに、ユズハに『適当』に焦がされた人たちが転がっている。
 まあ、誰かにリカバリィでもかけてもらえれば死ぬことはないだろう。あの呪文使える人多いし。
 二階にいた人たちもあたしたちの騒ぎを聞きつけて一階まで降りてきていたから、二階の人影はまばらだった。
 最短距離で廊下を駆け抜けて、三階への階段を駆け上がる。
「ティル! どこ !?」
 返事はすぐに帰ってきた。
 廊下の角を曲がったすぐそこで、ティルトが例のカエル男と対峙していた。ちなみにティルトはまだ木剣。木だからと侮るなかれ、殺傷能力は真剣とほとんどかわらない。ま、ティルトは使い方がうまいし、優しいから、あえて注意しなくても誰も殺したりなんかしてないだろうけれど。
「ンむ。ホントにカエル」
 ものすごく失礼なことをユズハがのほほんと呟いた。
「ちょっとティル、アセリアは !?」
「逃がしたよ! ユレイアたちと一緒!」
「よし、よくやったわ」
 あたしの顔を見るなり、カエル男が指をつきつけてわめいた。
「貴様っ、やっぱりマラードかセイルーンの間者だったのだな !?」
 ………あの。その理屈でいくと、あの時一緒だったユレイアも間者ということになるんですけど。あのこ九歳よ?
 まあ、あたしはセイルーン王家に近いところにいるから、結果としては間違ってないけど………。
 あたしは少しばかりハッタリをかますことにした。
「違うわよ! あたしは、ただ妹分があなたたちに誘拐されたから取り戻しに来ただけ! マラードだのセイルーンだのって、あなたいったい何言ってるの? なら、あなたいったいどこの国の人なのよ?」
 カエル男はようやく自分が口を滑らせたことに気がついたようだった。
 なんというか、あまりの底の浅さに、クーデルアにはロクな人材がいないのではないかと逆に気の毒になってくる。
 あたしの目配せに、ユズハとティルトが窓の方に向かって歩いていく。それを止められるような人間は全員、痛みを忘れるために夢の国。誰か目を覚ましていても、起きあがれる根性の持ち主はいないだろう。
「とまあ、それは表向きの理由ね」
 あたしは悠然と笑いかけた。
「ラウェルナさんへの脅迫の材料をもっと増やすつもりで、アセリアを誘拐したんでしょう?」
 なにせ上機嫌でラウェルナさんの宿に脅しをかけに行ってきたばかりである。本当は、あたしの方も誘拐したかったんだろう。
 おあいにくさま。
「でも、偶然見つけて突発的に誘拐したって、うまくいくワケないじゃない。それに、あなたたちが予測していなかったことが二つあるわ」
 カエル男の顔は蒼白だった。
 きっとクーデルア本国から責任を追及されるのはこいつなんだろう。もっともあたしがそのことに対して同情するわけがない。
「あなたたちが今日誘拐したのはね、あたしが連れていた子じゃなくて、彼女の双子の姉妹なの。人違いもいいとこだわ。これが一つ目」
 余談だが、いまだにあの双子、どちらが姉なのかわからないのだ。
 それはともかく、下と外の方が騒がしくなってきた。騒ぎを聞きつけた衛兵さんたちが来たんだろう。
「そして二つ目は、その彼女たちがセイルーンでいちばん有名は双子だったってことよ。意味は―――わかるでしょ?」
 あたしはカエル男の首筋に剣をつきつけた。
「クーデルアにいるあなた達の上役に伝えなさい。ラウェルナさんの身柄はこちらがいただくわ。今後、彼女にちょっかい出そうとしたら、そのときはあたし、あなたたちがユレイア王女と間違えてアセリア王女を誘拐したことを、アメリアさんとゼルガディスさんに言うから、そのつもりでね。
 ―――戦争したら、負けるわよねぇ?」
 ああ、とか、うう、とか呻いている男から剣を離して鞘に収めると、あたしはくすりと笑って見せた。母さんと父さんいわく、小悪魔の笑いだそうである。
「そういうことよ。ゼルさんとアメリアさんは、あなたたちが一枚噛んでることを(いまはまだ)知らないの。あたしは独断で動いてるのよ。あたしのいうことを信じるかどうかはあなた次第だけどね。
 ―――さあ、衛兵たちがくるわ。せいぜいうまく立ち回りなさい。押しこみ強盗にでも遭ったというのね。ラウェルナさんや、あたしのことを口に出したら………、告げ口してあげるから、そのつもりで」
 どっちにしろ事の真相はアメリアさんとゼルさんには話すけどね(嘘吐き)。
「お、お前………」
 ばいばい、と手をふるあたしに、カエル男がカエルのくせに金魚のように―――いささかあたしも表現がヒドイか―――息も絶え絶えに口を開いた。
「お前はいったい何者だ?」
「あたし?」
 あたしは小さく肩をすくめる。
「犬も食わない夫婦ゲンカの仲裁人よ」
 絶句したカエル男をほっといて、あたしは裏手に面した窓からレイ・ウイングで抜け出した。
 衛兵さんたちの中にはあたしに気づいた人もいたようだけれど、どうせ後なんか追ってこれやしないだろう。
 やれやれ。
 これで家に帰れば、一段落。母さんたちの方もうまくいってることだろうし。
 クーデルアのたくらみ―――というレベルまでいかない小細工は、セイルーンが関係しない形であたしたちが潰しちゃったし。あとは水面下でのやりとりになるだろうから、表だって戦争なんかしないだろうし。ラウェルナさんも無事だろうし。

 ………まあ、それもこれも焦った向こうが勝手にアセリアの誘拐なんぞやってくれたおかげなんだけど。

 ケンカの原因はキレイさっぱりなくなったし。まあ、もはや原因の手を離れてケンカしてるような気もするけどね………。
 でも、ここまでお膳立てが揃ってれば、いくら何でもアメリアさんとゼルさん仲直りするだろう。もともと仲が悪いわけじゃなし。
 うん。あたしたちってがんばったじゃない。誉めてもらってもバチはあたらんぞっ。
 よーし。
 あたしは大きく伸びをした。
 子どもの仕事は、これでお終いだ。



 ―――と、思ったんだけど。


 …………おはようございます………。
 というか、まだものすごく眠いんですけど、あたし………。
 叩き起こさないで、女官さん………。
 確かに、もう起きてもいい時間だし、陽も高く登ったいい天気なんだけれど、こっちが寝たのは明け方だったのである。
 ユレイアやティルトたちがベッドに追いやられても、まだ興奮していてなかなか眠れなかったのとは違って、こっちはテンションが通常に戻って眠気を覚えても、事情説明―――というか背後関係推測の裏付けを喋らされていて、明け方まで解放してもらえなかった。
 ああもう。大人たちも寝てないけど、子どものほうも眠れてないってば。アセリア以外。

 子どもの仕事はこれでお終いとか思ったら大間違いだった。

 あのあと、そう広くはない家にそのキャパシティをはるかに越えた人数が集まっていたため、あたしは王宮にゼルさんとアメリアさんを叩き起こしに行かされた。

「あたしたちが眠い目こすりながら起きてるのに、ゼルとアメリアだけ寝かせてたまるもんですか、ふっふっふ………」

 とは、母さんのセリフ。
 王宮が夜中に面会人を通すわけがないので、直接寝室までダイレクトで行ったら、えらいビビられた上に、ものすごく怒られて、ついでにどこの警備に穴があったかまで尋ねられた。
 いちいち答えたあとで、やっとあたしが用件を告げると―――ラウェルナさんの名前を出したためにまた一悶着あったのだが―――二人は王宮に部屋を用意してくれて、あたしたちは場所を移した。
 王宮に場所を移動すると聞かされて、(母さんがしゃべるのをメンドくさがったせいで)ユレイアの素性やあたしたちの事情を知らないラウェルナさんが通報されたと思って真っ青になったりとか、途中でサラナさんの具合が悪くなったりとか、なんかもう大変だった。

 ………いや、そのあとがもっと大変だったわけだけど………。

 事情を理解していないのはゼルさんとアメリアさんも一緒で、あたしが二人にイルニーフェさんから聞いた話を、父さんと母さんがラウェルナさんにあたしたちの方の事情をそれぞれ説明して、それからティルトたちをベッドに追いやって、ようやく話し合って………というか、一方的に母さんの雷がゼルさんとアメリアさんに落ちて………ラウェルナさんが平謝りに謝って………そんで………。
 ああ、ダメ。眠くて頭が働いてない。
 えっと、そう。結局あたしは王宮に泊まったんだ。父さんと母さんは帰ってったけど。
 とりあえず、昨日の話は母さんの「いーからとっとと仲直りしなさいッ!!」の一言につきる。
 だって、結局ラウェルナさんとサラナさんの処遇の話は今日に持ち越されたし………。
 まあ何にせよ、ゼルさんとアメリアさん仲直りしたみたいだから、いっか。
「あの………」
 うにゃ?
 ぼんやりとふり返ると、そこには顔見知りの女官さんが困ったような表情で立っていた。
「あー、おはよーございます。どうかしました?」
「マラードの公主様からヴィジョンが来てるんですけど………」
 歯切れの悪い口調に、あたしは首を傾げる。
「ゼルさんとアメリアさんは?」
「いま、お客様を交えてお話し合いの最中です。誰も入れるなと………」
「ユレイアとアセリアは? うちの弟とユズハは除外するとして」
「それが朝食後揃ってお姿が………」
 どこに行った、あの子らは………。というか、よくちゃんと起きられたわね。
 あたしはもつれあった金髪を指ですいた。

 ああ、眠い………。

「で、リーデットさんは誰を指名してるの」
「最初はアセリアさまかユレイアさまだったのですが………いらっしゃらないと申し上げたら、ケンカしている夫婦以外の関係者なら誰でもいいと………あの、リアさんは関係者ですか?」
「……………………あの年齢不詳のおにーさんは………」
 なんつーめちゃくちゃな指名だ。
 あたしの言いようもめちゃくちゃだけど。だって、リーデットさんって実年齢知ってても、すっごく若く見えるんだってば。お願い信じて。
 とりあえず、あたしは眠い目をこすりながらベッドを降りた。
「えっと………なら、そのヴィジョン、あたしが出てもいい?」
 他のだれも出られないんなら、あたしが出るしかない。王宮に宛てたヴィジョンにただの民間人が出るってのも、変な話だとは思うけれど。
 女官さんはホッとした表情で、ではそうお伝えしてまいります、と一礼して部屋を出ていった。
 着替えたあたしがヴィジョンルーム入ると、リーデットさんがにこにこと挨拶してきた。
「ひさしぶりだね、元気だったかい?」
「元気です、って一昨日あたりにイルニーフェさんに言ったばかりなんですけど」
「ああ、彼女いま寝てるから―――これ作ってたせいで」
 言って、手に持ってる数枚の書類を示す。
「それ………ラウェルナさんとサラナさんの素性ですか?」
「そうだよ。一応、クーデルアの目立つ人物は抑えてたつもりだったんだけれど、こっちは下級騎士の未亡人だったから探すのにすごく手間取っちゃって………って、その息子の名前まで知ってるということは、もしかして解決した?」
「しました」
 あたしがあっさりうなずくと、のんびりとリーデットさんは笑った。
「何だ解決したんだ。せっかくがんばったのに」
 彼女がね、と付け足すリーデットさんに慌ててあたしは御礼を言った。
 あたしとティルトの直感では、イルニーフェさんよりもこの人がはるかにタチが悪いという結論が出ている。
「まあ、もともとこっちの問題だからね。気にしなくてもいいよ」

 おっとりそう笑うアナタが怖いです、リーデットさん。

「なら、アメリアとゼルガディスは仲直りしたんだね?」
「はい」
 あのあと、めちゃくちゃに母さんの雷が落ちたもんなぁ………。
 そう言えば、その雷でも母さんは訳の分からないことを言っていた。
「だいたいアメリアが拗ねて突っかかるからいけない」とか「ゼルもゼルで対抗して拗ねてヘソ曲げてんじゃないわよ」とか………。
 結局、あの二人のケンカの原因って何だったの?
 そう言えば、同じようなことをイルニーフェさんも言ったっけ。
 あたしはヴィジョンの中のリーデットさんを見上げた。
「リーデットさん」
「何だい?」
「えっと実は………」
 あたしが不思議に思っていたことを正直に聞くと、ヴィジョンの向こう側でリーデットさんは笑いをこらえているようだった。
「リーデットさん?」
「ああ、それはね―――ッ !?」
 リーデットさんの姿が画面からいきなり消えた。
 と、思ったらものすごく不機嫌な顔のイルニーフェさんがヴィジョンに映った。イルニーフェさんもあたしと同じで、ものすごく眠そうである。
「ニ、ニーフェさん?」
「気にしなくていいわ、クーン。そのうちあなたにもわかるわよ―――あなたねぇ、子どもにそういうことを言っても無意味でしょうッッ !?」

 あの、あたしもうすぐ十五になるんですけど………。

 しばらくヴィジョンの外でごちゃごちゃやっていたようだったけど、やっとイルニーフェさんがこっちを向いた。
「クーン。夫婦ゲンカが犬も食わないのはどうしてかわかるかしら?」
「へ?」
 いきなりそういうことを言われても困るんですけど。
 とりあえず考えてみた。
「お腹壊すからとか………」
「………違うわよ。ユズハみたいなことを言わないでちょうだい」
 イルニーフェさんは頭痛をこらえるような表情で続けた。
「答えはハタから見ているだけでゴチソウサマだからよッ! だいたい、何でああも甘ったるいケンカができるわけッ!? 甘えすぎなのよあの二人は !! 信じられないわ !!」
 力一杯、ヴィジョンの向こうでイルニーフェさんが叫んでいる。

 ………あ、あの?

 あたしが顔を引きつらせていると、気を取り直したようにイルニーフェさんが続けた。
「クーデルアとのことは、あとはこちらが引き受けるわ。巻き込んでしまってごめんなさい。アメリア王女には仲直りしたなら謝罪は不要と伝えてね。のろけも愚痴も聞きたくないから―――それじゃあ、また」
 ぷつん。
 言うだけ言ってヴィジョンは切れてしまった。
 とりあえず、あたしは切れたヴィジョンの前で硬直するしかなかった。

 えっと…………結局何だったんだろう………?

 しばらく経って、あたしはようやく結論を出した。
「………考えないでおこう」