Ria and Yuzuha's story:Third birthday 【Ultra soul】 .from Fire soul
自分という存在を認識することはひどく窮屈だった。
何もかもが共有できずに、明確な境界を持って自分に接してくる。
融けあえないのが辛かった。
もっとも、辛いという感情も後付けで、そのときはただ漠然とした不快感を感じていただけだった。
オルハと名付けられた精霊に比べて、自分の自我の発達は遅れていた。
そのため、創り主である人間の女性はオルハの方をよく使っていた。そのせいか、オルハは強烈な自我を持つようになり、色々と自分に働きかけた。
新たに自分の一部となった魔力を使って精神世界面を介し、互いの意識をやりとりし始めたのもオルハだった。オルハが自分に魔力の使い方を教え、言葉を教え、すべてのものに名前がついているという、精霊の認識とは違う世界の概念を教えてくれた。
世界に名前があり、律があり、確固としているようで、実は模糊としている。
理と律で構成されていた以前の自分とは違う自分が、世界に存在している。
存在している、というその認識。
認識することができる意識を持っている自分。
以前とはあまりにもパラダイムの違う、世界。
なんなのだろう。
とても不思議だった。
逃げるという概念を教えたあとで、逃げなさい、とオルハは言った。
よくわからないまま実行した。
実行して―――そして出逢った。
器は壊されたが、自分はもとの理と律の存在たる精霊には戻れず、新しく生まれなおした。
二度目の誕生日。
合成された魔力のもとである邪妖精が憶えていた『肉体』という新たな存在の仕方。
五感という世界の認識の仕方は強烈だった。
精神世界面から感じる感情の波は、以前に精霊で在ったときの感覚に似て曖昧な情報だったため、ますますそう思えた。
オルハを失くしたのも、そのときだった。
生まれた空洞に名前があることもわからずに、ただ泣くことだけはなぜかできていた。
そこで初めて自分が思考し、感情を発しているという事実に気がついた―――
出逢った彼らは自分にとってなぜか『特別』で『好き』だと思った。
知らないということを知って、もっと知りたいと思った。
見る、聞く、触る、嗅ぐ、食べる、ということ。
濡れる、ということ。冷たい、ということ。
泣く、ということ。
歌う、ということ。
願う、ということ。
好きか、嫌いか。
自分が存在している、という、その確かさ。
時は過ぎて―――時間という流れがあることを意識したのも、そのとき生まれなおしてからだった―――精霊に戻りたいかと問われて。
自分は答えた。
もう、戻りたくない―――と。