Ria and Yuzuha's story:Third birthday 【Ultra soul】 .from Fire soul

 ―――くーん。
 初めて同じ高さから自分を見てきた、同じ大きさの存在だった。
 『りあ』や『ぜる』は自分より大きかったし、新たに『りあ』と『りな』から生まれてきた存在は自分より小さかったから、これは新鮮だった。
 その目線が、すぐに自分を追い越していくこともわからなかった。
 『くーん』が自分より大きくなったとき、何だか妙な気持ちになった。
 かなり長い間考えて、ようやく自分が淋しいことに気がついた。
 どうして淋しいのか、さっぱりわからなかったが、とりあえず扱い方を覚えた魔力で自分の大きさも変えることができるようになったので、結論を出すのはやめた。
 時間はどんどん過ぎて、いつしか『りあ』と『ぜる』に出逢った日のことが『最近』ではなくなったことに気がついた。
 自分が生まれてから、もうそんなに経っていたことが不思議だった。
 そんなに時間が経ったせいなのか、いままで自分のなかに寄り添っていた精霊としての部分は薄くなっていった。
 大地や、風や、水の精霊のことがわからなくなり、ついには炎を制御できなくなった。
 精霊じゃなくなった―――。
 それでも自分はここに存在していたし、消える気配もまだなかった。
 ありのままが自分のまま。
 当然のように、さして疑問も抱かずその変化を受け入れることにした。
 そうしたら、何だかとてもひどく『くーん』に怒られた。
 どうやら、伝えなければいけなかったことだったらしい。
 ―――伝えないと伝わらないのかと問うと、そういうことだってあるのだと言われた。
 消えるのは哀しいこと。
 消えていった存在が哀しいのではなく、それを見ていた消えなかった存在が哀しくなる。
 いつか消えていくとき、その消えていく自分は哀しくない。
 だけど、それを見ている消えない『くーん』は哀しい。
 怒られて、そういうことなのだと理解した。
 猫が消えたときの自分と同じような感じに『くーん』がなるのかと考えると、たしかに悪いことをしたと思った。
(あたしはあんたのこと好きよ。あんたのことを心配してる。あんたにとってはどうでもいいことかもしれないけど、そのことを忘れないでいて)
 好きな相手から好きといわれるのは、気持ちの良いものだと思った。たしかにそれは自分が相手のことを好きだという事実よりは大事なことではなかったが、それでも嬉しいことだから、忘れたりはしない。
 だいじょうぶ。
 自分は『くーん』が忘れてしまった、いつかのことだって覚えている。だから忘れたりすることなどない。
(だから安心しテ)
(ちゃんと見てルから)
 自分にはない心臓の音というのは心地良いものだ。
 だから忘れないでいてほしかった。
 『くーん』はちゃんと生きている。とてもとても大好きだ。
 とても、だいすき。
 それと同時に、他の『りあ』や『ぜる』や『せあ』や『ゆあ』のことも好きだった。
 ―――だから。
 ためらいはなかった。
 そう思った瞬間には、行動に移っていた。
 思い浮かんだのは風船だった。今にも、破裂しそうな。
 あたりを振るわせて、剥いでいく魔力の振動。
 膨張する。違う。そうじゃない。
 いつだったかに見た堤防の決壊に似ている。
 つつみを崩す、力在る旋律。
 かきまわして渦を巻く。振るえて剥がれ、砂塵のように崩れ去る。
 沸きたつように。溢れ出す寸前、その場所に―――。
 ユズハ・・・は目を見開いて叫んだ。





「ダメ、ゆあッ! せあがまだ、ソコにいるッッ !! 」





 生まれて初めて、空間を渡った。